先制攻撃
サイナギが腰を抜かしたのは言うまでもない。
今日中とは言われていたが、もう少しは時間がかかるだろうと思われた相手が、まさか警告から1時間もしないうちに港湾組合の事務所に訪ねてきたのだから。
「プライベートフォースの利府里衛利。間違いない」
サイナギの目がケドウからもらった顔写真のホログラムと事務所の監視カメラのズーム映像に鮮明に映っている女の顔を行き来する。
大型の装甲バイクから降り、正面口から訪ねてきた衛利が門番に近寄っていく。
「どうしますか?」
不安そうな部下にサイナギは不敵そうに笑う。
「強引に乗り込んでくるつもりはないようだな。用件はなんだと返してやれ」
衛利に応対する部下に無線で指示する。
『事情聴取のようです』
無線からの回答。迷わずサイナギはうなづいた。
「通してやれ。地下の事務室にな」
拳銃の安全装置を外して懐に忍ばせたサイナギと、周りの部下たちは棒状のランチャーに電気と蜘蛛の巣のような警告マークが描かれた弾頭を装填する。
「お前らは隠れて待機していろ」
サイナギが振り返って命令したのは人型の機械、汎用フレームであった。本来は細身の骨格部分のみで構成されているが、サイナギの後ろに控えるタイプは各関節を補強、全身を装甲化された戦闘用の代物であり切り札だった。
監視カメラを見れば衛利が地下の階段に案内されているのが見え、ほぼ勝ったも同然であることを悟る。
「いつでも地下室に来られるようにしろ。ケドウの野郎め。身代金は俺のもんだ」
部下たちを引き連れてぞろぞろと監視室から飛び出したサイナギ。彼らはついぞ部屋の隅に居座る羽虫に気付くことはなかった。
時間が足りないので今回はここまで