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ブラックスワン  作者: 鴨ノ橋湖濁
夜明け
79/91

もう一体の番人

短いけど許し亭許し亭


 階段を駆け下りる衛利には仮説があった。この巨大な廃墟には広大な地下街と併設された地下鉄が存在し、郊外の地下から現れた所属不明のソルジャーの集団はその地下鉄の路線駅の一つから這い上がってきた。

 更にその路線は通過駅であるがセントラルビルまでのアーコロジー地域へ伸びている。自然と彼らはその路線から補給を受けて、郊外を憎悪渦巻く策を実行していたことになる。


(分かっていたことだけど。全てはイヌモのせい)


 だが罪を受ける人間は既にこの世にいない。近衛は死んだのだから。


 それでも近衛を利用したのは『33』だ。それでもソフトウェアを罪に問う法律もなければ、逆に開発促進のためのエンジニアへの免責事項が定められている。それに33を止めたところで明日からはどうなるのだろうか。

 33はイヌモ所有のアーコロジーから海や空の交通や流通、生産から人々の生活や娯楽やケアまで網羅した統合プロジェクトなのだ。メディアすら33のプラットフォームによって提供される。


 自己進化の機能を搭載したソフトウェアには人々を傷つける事を禁止している。当然誰もこんなことを望む者はいないのだが、不思議なことに人を傷つける人間を助けることは出来る。誰かが望んまれた抜け穴は今も「正義」と「理由」の名の下に「誰か」を支援しているのだろう。


 思案しているうちに地下街であろう場所までたどり着く。店の店舗があったであろうスペースには帳がかけられ、中には簡素なベッドがあるだけだった。布団はきちんと片づけられたものや乱れた者から様々で、アイギスのセンサーには誰一人の生命反応は得られない。


『動体反応検知』


 皆無の生体反応と一つの動体反応。


 緑色のイオンスラスターを起動させながら、一体の機械は衛利と相対する。


「通しませんよ」

「メビウス、だったかしら?」

「ええ……」


 衛利はコインガンを構えるがメビウスは得物を持ってはいるが電力を流さず弄んでいる。罠かといぶかしむ衛利にメビウスは単眼のカメラを向けても一切戦闘態勢を取らない。

 容赦なく衛利はメビウスに向けて引き金を引くが、得物である杖に内蔵されたイオンスラスターを応用した電磁バリアがコインガンの軌道をあらぬ方向へ受け流してしまう。

 しかし、それ以上は何もしない。


 コインガンをホルスターにしまうとブレードを抜いて構える。電磁バリアもアイギスの物とぶつければ中和出来るだろうが、イヌモの機械にコインガンの豆鉄砲が効かないだろうとの結論だった。


「ケドウはどうしたの?」


 期待はしていないが、一応聞いてみる。意外と答えは返ってきた。


「地下鉄に乗った先で待っていますよ」

「誰を?」

「私かバンシー。それか貴方かユリアを」

「仲間ならともかく。なぜ私達を待つ必要が? 先に逃げているなら仲間がやられたのを見捨てて逃げればいいじゃない?」

「どうするのかを彼は教えてくれなかった」

「使い捨てじゃない。よくそんな男についてこれたものね」

「いいや。バンシーも私も、好きでやっていることさ。自分の意思でね」

「もういいわ。待っているならすぐにでも会ってやる」


 青のイオンスラスターの輝きを纏いながら衛利はメビウスに切りかかるも、得物の杖はブレードを切れ込みからではなく器用に側面を叩いて弾き一切の攻撃を受け流していく。

 反撃する様子もないが、ますます怪しくなって一度衛利は距離を取るも、切っ先を向けた構えを維持しながらも衛利は隙を見出そうとする。


「時間稼ぎもいい加減にしなさい」

「なら昔話でもっと時間稼ぎをしても?」

「必要ない」

「私と利府里司徒の話だ」


 そのままの姿勢を維持しながらも衛利の戦意が確実にそがれたところで、メビウスは話を始める。


「私の名前は元は、彼のプロジェクトの名前だ」


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