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ブラックスワン  作者: 鴨ノ橋湖濁
最後の日
75/91

メッセージ


 銃撃の跡が生々しく残るボーダレス商会の本部がある館には、どこに隠し持っていたのか分からない装甲車が固まっており。厳重に警備態勢を確立されていて誰もつけ入る隙もない。


 ルッツの後をユリアには奇妙に思いながらも黙ってついていくが、そのうちルッツが喋り始める。


「不思議に思うか? 郊外より騒乱が少ないのが」


「ああ。少なくとも一枚岩ではなかったはず」


「ニッシュは病院廃墟での一件依頼、乱立していた組織達のトップに集会をかけてな。あらゆる武器をボーダレス商会の管理下に置かせたんだ。もちろん大反発だったし小さな粛清も起きた」


「結局従わせられることが出来たんだな」


「ケドウがいくら高性能な武器を渡したところで、量を補えなければ大した脅威ではなかったよ」


 館にたどり着き応接間ではなく、地下の階段へと案内されていく。分厚い扉の生体認証と番号で開かれれば、先ほどの綺羅美化な絨毯やシャンデリア等の家具類とは打って変わって、コンクリートで堅牢に固められた箱のような質素で冷たい空間となっていた。


 それから少し降りた先にある扉を開けると、ベッドと医療用の器具や装置が設置されている。ベッドに横たわるニッシュと、横でモニターを管理している白衣の男性にルッツは話しかける。


「容態は?」


「今落ち着いています。意識があるなら話せますが」


「分かった」


 ルッツと共にユリアがベッドに近寄る。ニッシュの青白い顔いろは目を閉じて、酸素マスクの白と透明の繰り返しで辛うじて生きている証を目撃できる。


「ニッシュ。連れてきたぞ」


 耳元に囁くルッツにニッシュは静かに目を開ける。すぐ横の医療装置とは別のモニターが明るくなると、スピーカーからニッシュの声が流れてくる。


『よく来てくれたわ。友達に対してこんな形で申し訳ないと思ってるわ』


「ニッシュ?」


『今の私がどうなっているかは分からないけど、もしもの時の為の音声を残しておく』


 それから一枚の地図と一句が載せられた紙が映し出される。


『これは唯一の物的手がかり』


 ―――


 5年前。ケドウと思わしき男が、人々を集めようとしていた時があった。暴動が起こる少し後のこと。ただの貼り紙だったのだけどね。


 その集結地点が、昔は商業施設や名のある巨大な駅だった通りの地下。今では私たちも邦人達も近寄らないほど荒れ放題。


 ほとんどの人が与太話と思っていた、それでも目指そうとする人がいたそうね。それから誰も帰ってこなかったそうよ。誰もね。


 生還者0人。みんな死んだ者だと思い込んでいたの。


 別に集団で行ったわけでもなく、個々人で目指した人が多いせいで気に留めなかった。隣人たちは思い出すこともあったけど、どこかで野垂れ死にしたと。


 逆よ。ほとんどの人々がたどり着き、そこで……生きている可能性が高い。


 この貼り紙に書いてある一句、シスター崩れのあなたなら分かるでしょう。


【すべて労する者、重荷を負う者、われに来たれ、われ汝を休ません】


 ……私たちも独自で彼に関する証言を集めた。


 彼は母親の病気が理由で、今では廃墟になっているこの間の病院の近くで生活していたそうよ。昔は今ほど邦人も難民がきっちり分かれていることはなくて。


 証言では真面目に働いていて後ろ暗い活動に手を染めるような形跡はなかったみたい。むしろ相手がどんな人でも親切にしたそうね。父親も同様だったみたい。


 だけど、彼と父親は過激な邦人自警団の参加を拒んで脅迫を受けていたみたいなの。剣の会とは自称してたけど、剣の会は関与を否定してる。


 5年前の暴動前で相当荒れてた時期、ケドウの父親が自警団の襲撃で死亡したそうね。それから少しして母親も亡くした。


 その後に彼は失踪した。同時に自警団メンバーの大半が何者かによって射殺されていた。


 私見だけど、少なくともケドウ・ジュウエツと言う男は、私たちの考えるほど残虐な、いえ。自分の考える正義に忠実な人間なんだと思う。


 だから自分が敵だと思うモノに対して、今の外の惨状のような残虐を実行出来るんでしょうからね。


 貼り紙にあった地点。奴の拠点ないし手がかりはそこにあるはず。


 ―――


 再生が止まる。ユリアは貼り紙の地図で示された地点を目で見ることでパラディウムに送り、電子情報の地図に照合させてマークする。


「……」


 押し黙っているユリアにルッツは問いかける。


「どうした?」


「い、いや。……ニッシュは治るんだよな」


「今は抗生物質が効いているから大丈夫だ」


「そうか。手掛かりに応えないとな」


 何かを隠すように振舞うユリアに疑問を持ちながらルッツは共に地上へと上がって館を出てるとすぐに衛利へと情報をリンクさせてると。パラディウムで飛ぶこともせずに、誰もいない路地へと消える。


 衛利からの通信通知がかかるが少し手が離せないとメッセージを送ってから誰もいない事を見て路地の陰に座り込む。


 思い出すのはラングレーと共に、ユリアは今さっきマーキングされた地点に行ったこと。


 何気なく見回ったつもりだった。そこに居た一人の人間の反応と逃げ込んだ先のマンホールの地下空間と、不可思議なジャミングのようなノイズ。


 その後の自体が急すぎてユリアですら忘れていた不可思議な出来事。


 もしかしたら。


 あの時反応したのはケドウだったのではなかっただろうか。逆に33に庇われた彼がパラディウムのセンサーに掛かることはないはずでは。


 確認できなかったのだ。ただの賊だったかもしれない。


 それでも。


 もしもあの時少し早く確認できれば。


 この惨状は回避出来た可能性があるのだから。


 巡る思考にユリアは思いっきり歯ぎしりをしてから目の前の壁を思いっきり殴りつけた。


【警告。フレームにダメージを引き起こす可能性があります】


「分かってる!」


 パラパラと崩れる壁の穴を見つめながらユリアはようやく衛利からの通信に応えた。


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