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ブラックスワン  作者: 鴨ノ橋湖濁
最後の日
74/91

振りだし


 オリジンへと脱兎の如くユリアは飛び掛かれば両刃の槍を突き出せば、オリジンは横へと高速に避ける。


 紫電を纏った槍が放電しながら空を切るが、迸る紫電は周囲の建物やオリジンへと襲い掛かり。街灯が高電圧に晒されて割れて砕ける。


 衛利からすれば突然ユリアの乱心とも言える行為に、驚きの感情で呼びかける。


「ユリア!?」


「言うな。あいつを除かない限り、あのテロリスト野郎に主導権を預けてしまう事になるぞ」


「それなら初めから」


「それに見てられないんだよ!」


 オリジンは放電をなんともないように構えるが、明らかにユリアを警戒しているようにその場で様子を見るも、すぐさまその場から離脱して急降下爆撃を行おうとするドローンに向けて瓦礫を投げつける。


 投げつける動作に漬けこむようにユリアが再びオリジンに刺しかかる。機敏にも拳を突き上げるオリジンの攻撃をギリギリで躱しながら、槍を振り切ればオリジンも少し体を捻って躱すも。槍に纏う紫電が伸びる刃となってオリジンの胴体に直撃する。


 オリジンの紫電が直撃した部分から煙が上がる。ソルジャー並みの機械であれば、内部の回路等が異常や物理的に破壊されてもおかしくない電圧を複数回流し込まれてもオリジンが損傷を受けている様子はない。


「ちっ……」


『ユリア!退避して』


 既にその場から離れている衛利の声と共にパラディウムから警告が鳴り響く、とっさにその場から後退すると迫撃砲が地面に炸裂して周囲を土煙で包むも、赤い光が遠のいていくのを見た。


「あの野郎には全く聞いてないだろうな」


 独り言をつぶやくとユリアは警戒を維持して衛利と合流する。


 建物の陰に隠れていた衛利は身をかがめたままで、誰かと通信を試みていた。


『聞こえるか?』


 通信先から聞こえる男性の声、通信回線を開いているためユリアにも聞こえている。


「こちら利府里。イヌモ治安維持部隊の指揮官です」


 淡々とした口調にはかつての屋敷とのやり取りのような温和さはない。


『剣の会、東城義越です』


 相手は恐る恐る言葉を慎重に選んでいるようだった。


「なぜあなた方は武装して陣地を固めているのか。理由をお聞かせください」


『昼頃から発生した武装民兵が反乱を起こした。その対処と避難のためだ』


「今現在、蜂起したと言う武装民兵があなた達ではないかとこちらからは見えるのですが」


『……』


 その沈黙はこらえているようにも考えているようにも思えた。


『我々はあくまで自己防衛のために集結したまでだ。イヌモが武装解除を命令するならば、おとなしく従う用意がある。ただし今現在周囲の安全が確認できない以上、そちらに安全を確保してもらうことになる』


「分かりました。周囲の安全を確認し次第向かいます。以上」


 通信を切った衛利に周囲を警戒していたユリアが寄ると、先に衛利が尋ねた。


「あの機械は?」


「離脱したようだ」


 オリジンは既に衛利達から離れ元来た道を、爆撃ドローンを退けながら走っている様子が偵察ドローンから送られてくる。


「何がしたかったんだ?」


「鎮圧の遅延。あと少しのところで商業跡地だったのに、橋頭保付近まで押し返されてしまった」


 その間にも浸透と展開を繰り返す所属不明のソルジャー達。オリジンによって失われたり、敵が優勢となった箇所で撃破されたソルジャーを差し引けば増援まで橋頭保付近を守る以外の選択肢を取ることは出来ない。


 爆撃ドローンもハイ・イーグルとオリジンの損害も激しく増産体制ではあるが、対空陣地を組んだソルジャーへの飽和攻撃を行える程ではなくなり確実に損害が出るほどの少数でしか行えない。


 相手は減っていく一方でこちらは戦力補充が出来る圧倒的なアドバンテージを抱えているのに、すべてはあの男が差し向けたハイ・イーグルやオリジンによって狂わされた。


 だが、少し離れて沿岸に近い場所から火線が見えていることに衛利は気づく。


「あの方向は」


 気づいたユリアも呟いた。


「ボーダレス商会の方面だ」


 偵察ドローンを飛ばせばイヌモの兵器で武装した人々が、所属不明のソルジャーに向けて攻勢をかけて進出しているようだった。郊外の深刻な戦闘で気を逸らされていたが。ボーダレス商会はどうやら足元を固めて郊外の戦いに参戦してきたようだった。


 だが、ソルジャーと人間では隔絶の差がある。イヌモのレールライフルはソルジャーには有効でも、相手の20㎜の機関銃を問答無用に降り注げば出血も激しいものとなっている。


 ユリアは衛利の肩を叩いた。


「ボーダレス商会と協力できないか。ニッシュと掛け合ってくる。ついでにあっちの戦線も参加してくる。いいな」


 衛利はうなづくとユリアはパラディウムのスラスター吹かして飛翔する。


 ユリアはボーダレス商会の無線チャンネルを探すとすぐに見つかり回線を開いた。


『こちら前線部隊。ダメだ敵の抵抗が激しくてこれ以上前に……』


 聞けば聞くほど彼らは無理に前線を広げようとしている様だ。敵襲に所属不明のソルジャー達も攻勢地点に集結して迎撃態勢を整えている。


 ユリアがすぐさま指揮下のハイ・イーグルを向かわせて上空から襲わせれば、上空から急降下で4つの影は火線に晒されるが、更に爆撃ドローンによる爆撃がさく裂して迎撃地点一帯を瓦礫の山に変えた。


 山場を越えて安堵する人々の上から、スラスターを吹かしてユリアが降り立てばその中に居たルッツと目が合った。


「遅いぞ」


「そりゃあ悪かったな」


「さっそくで悪いがニッシュに会ってくれないか。俺たちはそのためにこんなド派手な戦闘を展開したんだ」


「ニッシュが……大丈夫なのか?」


 ふとニッシュが倒れた情報を思い出しすがルッツはただ一緒に来てくれとしか言わなかった。


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