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ブラックスワン  作者: 鴨ノ橋湖濁
最後の日
72/91

ORIGIN


 今では汎用フレームを基にしたソルジャーによって、テロ組織や反政府組織等へ人が死なない一方的な戦いが繰り広げられた後に。いつしかソルジャー同士の戦いが始まるだろう。


 誰かがそう考えた。


 汎用フレームのような人を相手に作られた人工知能を流用したソルジャーも、人間の指揮で動くようにあえて性能を人間の反応速度に合わせて遅く調整されている。


 それでもハイテク化の流れは阻止出来ずに。いずれ、ただ作戦行動をの倫理観のためだけで存在している人間の指揮官も、機械が倫理観を獲得し始めれば、いなくなってしまうだろう。


 もはや人間と言う脆弱なハードウェアと貧弱な管理能力は、現代では不要とみなされる。


 人を超えた知識と知能と強大な体を目指して設計された個体。


 新しき人類でもある「アレ」を誰かは名付けた。


【ORIGIN】


 ―――


 一体のソルジャーの上下半身がちぎれ飛ぶ。他のソルジャー達も腕部を必死に動かして機関銃を向けるが、オリジンの巨体を捉えることすら叶わない。


 乱射されてもオリジンの体の疑似筋力繊維の塊の隙間に配置されるイオンスラスターが真っ赤に輝くと、衛利とは比べ物にならない出力を持って弾丸を文字通り吹き飛ばす。


 一足で何メートルも跳躍して腕を掃えばソルジャーが軽い人形のようにちぎれ飛ぶ。


 時間の流れ。まずそこから違う。


 秒や時間等。人間の勝手に定めては、従属し厳守していた決まりなど無視して。ハードウェアである肉体の性能をフルに活用して、繊維の一本一本を制御するソフトウェアは、どのように硬質化と軟質化すればいいのかを一瞬で計算し終えてから、仮にも金属で出来たソルジャーの構造体を一方的に破壊する。


 ビルの外壁から他のビルの外壁を飛び移って、ソルジャーの小隊がいれば急降下して手刀で砕き、そのまま手刀の硬質化する指先で別のソルジャーを突き刺して致命的なダメージを与える。突き刺したソルジャーを別のに投げつけると双方共粉砕されて動かなくなる。


 ふとオリジンが立ち止まると地下の園で誰かが考える時にやっていた仕草で片手を顎にやって考える。


「ケドウは足止めと言っていたのにどのくらい倒せばいいのだろうか。敵の増援は時間を追って増えていくなら、橋を落とせばいいのだが。ケドウの目的が利府里衛利による郊外の占領であれば、敵対的な剣の会や難民への蜂起対処できる戦力を残さなくてはならない」


【シミュレーションを開始】


「まぁこのぐらいだろうか」


 秒数にして1秒未満の思考してから、オリジンは顎から手を離す。


 ふと銃弾が飛んでくるが、硬質化した繊維によって電磁バリアも使わずに硬さだけで弾く。見れば血にまみれた女が怨念の眼差しで拾ったライフルを構えていた。


「イヌモのブリキ人形が!お前たちのせいで私の家族は!」


 全く効かないのに激高した女は決してライフルをオリジンを狙ったままだ。


 数秒。


 オリジンは彼女に相対すると見えない速度でジャブを放つ。もちろん距離は届かない。


 発生したのは気圧の不協和音。その調律の為に飛び出した空気は女に真っすぐ向かいライフルごと女を吹っ飛ばした。


 倒れこんだ女は負傷したのか立ち上がることも出来ず、その場で叫び続ける。


 その光景をオリジンはしばらく見つめていた。


「……」


 ―――


 教会から外へ出てから


「なんなんだアレは……」


 絶句したユリアは衛利に聞くと、衛利はすぐさま思考内でアイギス経由で「33」にデータの開示を求めればすぐに返答があった。


 ドローンから送られてくる映像に映るのは真っ黒い疑似筋力繊維で覆われ、衛利のアイギスと同様にフルファイバーアーマーと呼ばれる種類のものとそっくりだった。


【ポストヒューマノイド計画のプロトタイプ。個体名はORIGIN】


「アレを無力化出来る方法は?」


【現在保有している戦力では不可能】


「……不可能? ドローンでの集中砲火では」


【速度および防御をシミュレーションしても6時間行っても効果は限定的か無し】


 衛利は思考が追い付かず聞き返すと現戦力で対抗は出来ないと繰り返す。


【新規生産による自走砲生産を推奨する】


 ユリアが慌てて口をはさむ。


「待て。これはただの民兵による紛争なんだぞ。民家も民間人もいるのに自走砲なんて使うなんて、この辺りを全部吹っ飛ばすつもりか?」


【巨大口径による化学反応弾での破壊が……】


「いえ……まだ手があるはず」


 衛利とユリアは黙り込んでドローンからの映像を凝視する。


 オリジンの素手で引き裂かれ破壊されていくソルジャー達を監視ドローンの映像が追い付けない程の速度で破壊されていく。


 赤いイオンスラスターを放ちながら瞬間移動の様に攻撃した瞬間しか姿が見えない。まるで赤い光がソルジャー達を襲っているのようにも見える。


 絶望的な光景を目の当たりにしても二人は必死にホログラムに目を通す。


「……諦めたわけじゃないよな」


「まさか」


 圧倒的な存在に二人は押し黙りつつも思考を巡らせている。


 ふと、オリジンが停止した。顎に手を当てて考えるそぶりを見せると即手を離す。それからどこかに振り返るとまっすぐ見定める。


 暴徒が一人でオリジンに向かってソルジャーと比べれば粗末な銃を向けていた。


「冗談だろ……」


 ユリアがこの後に訪れると想像に口を抑えてしまう。


 だが、オリジンはただ暴徒を見つめている。それからジャブをしてその場を去っていくと、衛利はすぐに命令する。


「あの女の人どうなってる?」


 映像が切り替わり女が倒れこんでいるが、負傷してても生きているさまを見ている衛利。何かを思いついたかのようでユリアは問いかけた。


「あれはためらったのか?」


「たぶん。弱すぎて放っておいただけかもしれないけど。一つの可能性に賭けるしかない」


「どうするんだ」


「オリジン。あいつと話し合うしかない」


 突然の提案にユリアは本能で衛利の腕を掴んだ。


「いつ……」


 衛利の呟きにユリアはすまんと悪びれて手を離す。


「私は反対だ。まだ情報を集めて」


「そんな時間はないの」


 見ればオリジンは既に橋頭保まで出現位置の半分を過ぎている。その後ろをケドウのソルジャーのマークである黒い装甲の群れが前進する。


「いったん橋頭保の人達を見殺しにして撤退しても、あの速度じゃすぐにアーコロジーまでやってくる。逃げきれない」


「……」


「信じてユリア」


 そっとユリアの頬を衛利の手が触れた。


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