道すがら
昼下がり。郊外のくたびれたコンクリートジャングルを歩くユリア。その後ろについていく衛利はキョロキョロと上を物珍しそうに見ている。
「これは……」
垂れ下がる木の実や木々。公園と呼ばれていた場所には畑が耕され、可能な限り掘り起こせる場所に土を詰めて植えている。そこで働く人々の姿も衛利がたまに立ち止まって見物する。ユリアはその度に衛利に振り返ると。
「あまり見てるなよ。面倒になるからな」
一方ユリアは水平方向をキョロキョロと警戒しながら進んでいた。訳は今している格好にある。二人はファイバーアーマーを身に纏っているが、上から迷彩にも使えるモスグリーンのマントを羽織っている。
明らかにここにいる人々より上質であり、一発で彼女たちの持ち物がそこらの物より良いと決めつけられる要因になりかねないことのリスクを考えると冷や汗ものである。
更に。
「なぁ利府里さん」
「どうしました?」
「このコスプレみたいな装備。いや、確かに性能は高いんでしょうけどね。目立ちやしないかなって」
ユリアのマント下。その身を包むファイバーアーマーは、ユリアの価値観では余りに常識から離れており違和感と羞恥心が自然と湧いてきてしまう。
「いいでしょう。目立てば威圧効果になります」
「ああ、確かにね……」
(いやそうじゃないんだけど)
首をかしげる衛利の返答に半ば諦めて周囲を探る。衛利の足手まといにならないよう一時的な措置とは言え。ユリアも帰るべき日常を考慮しなければならない。
(顔なじみに会うのは気まずい)
知らない土地ではないゆえに、この格好を晒すのは抵抗がある。それでもなお衛利の少しだけ好奇心を覗かせた姿が気になってつい問いかけてしまう。
「珍しいか? セントラルタワーから見えるんじゃないか?」
「資料でみたことはありましたが、間近で見るのは初めてで」
「そうかい。あそこに集められている食糧の一部を分けてくれたら、こんなことしなくてもいいんだけどな」
「ええ」
不慣れなためか率直に意見を言ってしまう自分をユリアは呪う。衛利に金持ちへの不満を伝えたところで何か変わるわけでもない。
「ところで港湾組合へ事前に連絡は?」
「チャンネルが見つかりませんでした。結局直接調べるしかなさそうですね」
「……教会にも直接的なコネクションがない相手だからな」
突然武装した輩の元にお行儀よく玄関からノックして「過激派に武器を流してますか?」なんて聞いて答えてくれるわけがない。装備の差が圧倒であれでもたった二人では心配は尽きない。
「もし組合がテロリストと通じていたらどうする? しらばっくれるならともかく、いきなり襲い掛かってきたら?」
「装備の差で圧倒します」
「なぁ。さっきも言ったけど確かにスゲー装備とは思うさ。イヌモの最新鋭装備のこの……」
「ファイバーアーマーです」
「ああ、そうだな。だけど心配なのはそれだけで数と不利な状況を覆せるのかって話さ」
懸念を伝えるユリアに衛利は少しだけ早口になる。
「では、ユリアさんは外で待っていてください」
「いや私は……」
別に不安をあおるために言ったつもりはない。ただユリアは思いついたことのために首を縦に振った。
「分かったさ。私は外で待機する。ただし奴らに見つからないところで何かあれば援護に入る」
「ええ」
(気まずい……)
重苦しい雰囲気から両者は目的地にたどり着いて別れるまでこれ以上の言葉を交わすことはなかった。