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ブラックスワン  作者: 鴨ノ橋湖濁
最後の日
69/91

逆転の光


「ハイ・イーグルが抑えられるまで進軍を停止する。対空レーザーを集中させた陣地を形成して」


 攻勢が頓挫した衛利達の一団は、アーコロジーに通じる橋頭保付近に設置したセーフゾーン手前へと後退していた。音響装置を積んだドローンが小型ながらも遠方にも通じる程の大音量で避難を呼びかけていた。


『こちらイヌモコーポレーション、治安維持部隊です。我々は皆さんの安全を確保する任務に従ってアーコロジー橋付近に避難場所を設置しました。至急安全を確保しながら避難してください。繰り返します……』


 でっち上げだ。治安維持部隊なんて本来は存在しないし、安全を確保する任務も存在しない。全てが今、衛利が考え出したことだ。


 近衛がいなくなり命令者が不在な今、衛利自身の願いを【33】の協力のもとで実行している。


「……」


 前線から少し引くと放送を聞いたのかセーフゾーンの方角を目指す人影がまばらだが見えるようになってくる。


「待ってくれ!」


 足を止める。呼び止めた男が瓦礫を指さして言った。


「頼む。妻が埋まっているんだ。手を貸してくれ」


 目を向けるとアイギスのレーダーを送受信し、衛利の視界に瓦礫の下に人型のアイコンが映された。


「分かりました。辺りを警戒していて」


 瓦礫に一直線に向かう衛利に男は困惑した様子で見守る。


「あ、あんたそんな華奢な体じゃあ持ち上がらないぞ。周りの汎用フレーム達に……」


 衛利がアイギスの繊維に電力をチャージして瓦礫の塊を掴んで全身の力で持ち上げて裏返す。唖然としていた男もすぐに現実を受け入れて瓦礫下の傍に寄る。


 血にまみれた女が弱々しく呼吸している。衛利はすかさずアイギスのスリットから真っ白なシールを取り出して、女性の喉元に張り付けた。


【身体ダメージ診断。内部の損傷なし。止血開始】


 女性の体中の傷口から血の付いた泡の塊が少しずつ湧き出てくる。男は見たこともない現象に慌てて振り向いた。


「なんだこれ?」


「安心してください。彼女の血から止血する泡を作りました。残留するナノマシンが体内を巡って止血と抗生物質を続けていますが、今はそれだけで……」


「生きていられるのか?」


 男の眼差しが射貫くように見つめてくる。


【生存の可能性は90%以上です】


 アイギスの助言で衛利は首を縦に振った。


「生きていられます。安全に逃げられれば」


「ああ、そうか……よかった」


 男は女を抱きかかえて涙を流した。


「ありがとう。ありがとう……」


 再び衛利の頭によぎった命令者不在の状況。今でも具体的にどうすればいいのか全く分からない。


「ここは危ないですから」


 先に男の安全な避難のためにソルジャーを付けて遠ざかっていく姿。それを衛利はしばらく眺め続けた。


(私、初めて……)


「初めて人を助けたかも」


 瓦礫を掴んだ感触を思い出して手のひらを開けたり閉じたりしていた。


【警告:セーフゾーンへとハイ・イーグルが接近】


「……まずい」


 なぜか衛利に攻撃せずに去っていったハイ・イーグルだったが、今度は避難民達へと向けて飛んで行っている。


(今度は何を考えているのケドウ……)


 あの男が何をしでかすか知ったことではないが、ろくでもないことであることは確かだ。


「ハイ・イーグルの生産状態は?」


【第1弾完成が残り30分】


「仕方ない。4機のハイ・イーグルを囮にして」


【指揮権がありません】


「なぜ!? さっきまでは、まさか。あの傷から」


【ユリア・ネストと共に先ほど出撃しました】


 目を見開いた衛利が空を見上げれば漆黒の空から紫色の光が降りてきてこれが真実と知った。


 それから爆音が響き衛利は地に伏せた。


 ―――


 フルフェイスのヘルメットを被り、2つの巨大な電磁ホイールの装置を背中のジョイントに接続して滑空する。白い装甲のパラディウムの全身のイオンスラスターから眩い紫電がほとばしる。


 右腕には巨大なレールガンを携えユリアは落ちながら郊外を目指す。


【敵航空機をマーク】


「一つ良いか?」


【どうした?】


「レールガンが思っていたものと少し違う」


【適した機能を追加しておいた】


 33はパラディウムのような少々人間味のある答える。


「機能?」


【電磁投射よりも電磁ホイールからエネルギー供給を受けた直接攻撃の方が良い】


「信頼出来るのかそれ」


【イメージを送る】


「……なるほど。この方が良いか」


 普通ならば失神してしまいそうな高さからもユリアは悠々に滑空し続けた。角度を調整しなければ郊外すらも通り過ぎてしまいそうだ。


「教会はどうなってる?」


【何回聞くつもりだ?】


「気になるだろう」


【変わりなし。今も到着したソルジャーが周囲を固めている】


「そうか。……それとボーダレス商会の本部は?」


 ユリアが郊外の外れに目をやれば、難民区は余り火の手が上がってないように見えた。


【邦人達の手に取る武器より、難民たちの武器は余り脅威ではないようだが、混乱に乗じているようだ】


「衛利は何か手を打ったか?」


【なにも。余裕はない】


「分かった。交戦に入る」


 セーフゾーンへと接近するハイ・イーグル達が一斉にユリアへと向かう。


【敵航空機。こちらへターゲットを変更した】


「上等。早速使うぞ」


 レールガンを前方に構えたユリア。だが、その銃口は狙いをつけようとしない。銃口のバレルに紫電が纏い強烈な電撃が銃内に蓄積されていく。


【電力臨界】


 ユリアがトリガーを引いた瞬間。目の前が発光して保護ヘルメットの修正越しでも目を細めてしまう。


【拡散誘導イオン着弾】


 ハイ・イーグル達は避ける暇もなく。レールガンから延びる紫電の放射に装甲ごと内部を焼き尽くされ、破壊されて火を噴いて落ちていく。


「雷すら武器にするってのか。神になったってこんな気持ちなのか」


 一瞬で決着を付けたユリアの後に味方であるハイ・イーグルが続いていく。


 通信を開くと口を開いた。


「衛利。ユリアだ。飛べる限り上から支援する」


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