出し物の佳境
商業跡地に近づく度にスナイパーや民兵で固められた検問が衛利の道を塞ぐが。軍事用に作られた素材ではなく、そこらの木や廃車、建築物のコンクリートで出来ただけのバリケードでは弾避けにすらならない。
重装ソルジャーが構える20㎜の機関砲は容易く彼らの用意できる一番強固なコンクリートを破砕して、廃車を更に無惨なスクラップに変える。
後に残るのは血だまりと肉塊のみ。
跡地の付近にはより多くの高層の建物が囲む、ここにはかつて多くの人が平和な時を忙しく、又は緩やかに過ごしていたはずだった。今やその面影は全くない。
スナイパーが高層ビルの窓から布を被る等で巧妙に銃口を覗かせるが、先行する偵察ドローンが通り過ぎると偵察情報が後方を飛ぶ機関銃ドローンに伝達する。
曳光弾が一つの一つの窓に降り注ぐと支えを失った銃が落下して数十メートル下で部品が散らばった。
敵が一掃され高層の建物の通りへと重装ソルジャーと共に突入する。
衛利が先ほど落ちてきた銃の残骸に目を向ける。木のストックと年季の入った真っ黒な鉄の銃身、100年以上前に使われたバトルライフルが今役目を終えて息絶えていた。
【警告:建物内に爆発物発見。退避】
衛利が一旦後ろへと引こうするため、イオンスラスターを発光させた瞬間。隣にある建物の1階が内部から爆破される。これは衛利を傷つけるためではない。
1フロアの支えを失い。建物自体がその場に沈み込むように、大きな土煙と瓦礫を発生させながら倒壊する。
衛利はすぐさま煙から抜け出すと、アイギスのスロットから呼吸マスクを取り出して口に当てる。
【粉塵が来ます。レーダーモードスタンバイ】
その場で目を閉じると視界は暗くなるが、それでもアイギスから送られるレーダー情報が視覚化され衛利の瞼の裏に映り込む、色のない白黒の世界だが実際の世界と遜色ない視界が広がった。
そこには瓦礫で塞がれた大通りが広がる。周りの道でもいいが、それだけ確保しなければならない地点も多くなってしまう。
だが衛利は慌てない。頭を上にあげるとその意思を汲んだように既に爆撃ドローンが編隊を組んで、直上から急降下。空気を切り裂く音が聞こえたと思えば、爆撃が降り注ぎ。炎と煙から荷を降ろしたドローンが上へと飛んでいく。
瓦礫が吹き飛ばされたり更に細かく砕かれ、そこには道が出来ていた。
それから衛利は再び前進を開始する。
―――
地下鉄のプラットフォームへの階段にケドウがたどり着いた。バンシーが既に停車する電車の前で待っていた。
「おや? メビウスは先に来てないのかな」
「メビウスはまだ」
「なんだ。せっかく急いできたのに……」
あー。と納得すると頭をかいてからプラットフォームにある柱に背中を預ける。
「彼にもプライベートな欲求があるんだろう」
「プライベート?」
「実家帰りでもしてるんじゃないか」
ケドウは端末を取り出してホログラムを映し出す。表示されたマップには衛利と従えるソルジャータイプの位置だった。その圧倒的な盤面にケドウが唸る。
「さすがに数の差がありすぎると思ったが、やはり民兵と最新鋭の部隊では勝負にならないようだ。33、彼女が彼らを鎮圧するまでは?」
【およそ1時間】
「仕方がない。高層の奴らの後始末に回しても、500体ほども余ってしまうのだから、奴らがソルジャータイプに変換されれば当然……」
それからケドウは端末に呟いた。
「33。備蓄していた兵器を全て稼働させてくれ、もはやこれ以上出し惜しみする必要もないだろう。それから……彼女が殺しているのは武装した者だけかな?」
【全兵器稼働了解。利府里衛利は武装した者のみに攻撃を絞っているようです】
「ふーん。なるほどねぇ」
【それがどうしたのですか?】
「いや、これだけの騒ぎになっているのにメディアのヘリどころか巡視艇も来てないようじゃないか。空では衛星代わりの夕星が輝いてるのに、つまり利府里衛利がその気になれば、郊外に居る人間を皆殺しにしてしまっても誰も気づかないってことさ」
目を細めるケドウは小声でつぶやいた。
「だが、分かっているだろうか。君は『俺』と同じことをしようとしている。人間を善し悪しの天秤にかけ、生かすべき命を決めた。だが、その後どうするつもりなんだ。今救えればそれでいいのか、それとも……」
考えこむケドウにバンシーは近づいた。
「ケドウ」
「なんだい?」
「あなたは、自分を命を決めているの?」
「……まぁ。そうだな」
「私も決めることも出来る? あなたを生かす命であるとも」
「それは君が決めることで、『私』が決めることではないよ」
少し口角をあげてバンシーに目を向ける。そうしているうちにメビウスが階段から降りてくる。
「すみません。遅くなりました」
「いいさ。さて最後の集会と、晩餐だ」
―――
商業跡地にもう数ブロック先へと前進した時に異変は起こった。衛利へとアイギスが情報を送る。
【所属不明無人機が戦域に侵入しました。数は8機】
「形状確認は?」
【形状測定完了。ハイ・イーグルタイプです】
「まさか……」
それから戦域に展開している偵察しているドローンからの反応が消失し始める。
【リンク中のドローンが攻撃を受けました】
「対空機関銃は?」
【レーザーのみです】
「アーコロジーに最優先で生産を命令……」
衛利たちの上を高速の無人機が空を切り裂いた。ソルジャーが上方に銃を向けるも、射撃することは無駄だと判断して発砲もしない。
どこかで対空レーザーが光を浴びせるも機体の手前で屈折してすぐレーザーの死角へと入りこむ。そうしながら小さなドローンを追い立てて搭載された電磁機銃を一発一発を正確に叩き込み撃墜していく。
ドローンより二回り大きくても生産より空力を重視したハイ・イーグルは高速のドローンへと追いつき回り込み、反撃するにしても機動力と建物を利用されなすすべもなく落とされていく。
衛利が自らコイルガンを構えるが、あまりの速さな上に低空を駆けられて狙うことも出来ず、ハイ・イーグル自身も分かっているのか頻繁に進路を変えると待ち伏せで撃つことすら叶わない。
【旧駅舎より、ソルジャータイプが展開。所属不明】
「アーコロジーからの増援は?」
【第5波が橋を進軍中……第5波が敵無人機が襲撃を受けました】
「なんですって!?」
驚愕する衛利に更にハイ・イーグルの一機が接近するのが見えた。
【警告:敵無人機からの機銃掃射】
すぐさま運動神経をフルオートで回避動作を取ると、周囲のソルジャータイプが撃ち抜かれダウンする。さすがのソルジャータイプも電磁機銃を受ければ発泡スチロールの様に装甲と基礎フレームを散らすほかない。
「……」
衛利はしばしハイ・イーグルが遠くへ過ぎるのを待つも、しばらくの間固まっていた。息を吐いて、アイギスのスリットからラムネを取り出して口に入れる。
「対空機関銃が配備されるまで一度二つ前のポイントまで撤退して侵攻計画を組みなおす」
【了解】
「敵のソルジャータイプの数と動向を可能な限り提供して」




