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ブラックスワン  作者: 鴨ノ橋湖濁
最後の日
66/91

希望なる余剰


 二人の子供が銃火を避けて路地へと逃れていく。その中で年長の少年は幼子を抱える少女に問いかける。


「その子、怪我は?」


「……大丈夫。少し気を失っているだけ」


「そう」


「足は大丈夫?」


 ズボンをまくるとアザが出来た少年の足が膨れている。それから思い出すように苦悶の表情で座り込んだ。


「しばらく休もう」


 少年は路地の狭い隙間から暗黒の空を見上げる。いつもは荷物を吊り下げるドローン達が、今では爆弾や機銃を吊り下げて次々に人々に襲い掛かってくる。


 今でも曳光弾の光線が降り注ぐのが見える。遠方では炸裂音がして生暖かい風が路地に吹き抜けた。


「ここなら安心かな?」


 不安そうな少女の問いかけに少年は答えずに辺りを見渡すだけだった。その時幼子が目に入る。


「その子は置いておこう」


「どうして!? この子はお父さんもお母さんもいないんだよ!」


「でも、僕たちが逃げきれないかもしれない。これ以上は」


 今日の朝から様子が全くおかしかった。突然、人々は最新鋭の兵器で武装してそこらじゅうで殺し合いが始まっていた。


 それ以前から人々は少なからず暴力や恫喝が日常で起きていた。そんな中で弱者が報復の手段を持ってしまった。


 だが、もっと強い力が空から降ってきてから状況は一変した。追われるものが追われる側に転落し、人々は彼らと共に逃げ惑うしかない。


 身をかがめる二人の居る路地に面する通りから男達の怒声が聞こえる。


「早くこっちに逃げろ!」


 若い男達は本来誰が最初に手に入れたのか分からないイヌモの武器で武装していた。しばらく空の様子を見て何事もないことを確信した一団の目に子供達が写ってしまった。


 彼らがよそ見しているうちに逃げようとするも少年は足の痛みですぐに動けず、少女は怯えて縮こまってしまう。


「おい。逃げようとすんじゃねえ」


 男の一人が追いかけて少年を後ろから頭を殴りつけて倒すと少女に目を向けた。よく見れば全員の目は血走っていて誰もが異常な興奮を込めた目線だ。


「お、お嬢ちゃんダメじゃないか。こんなところで危ないよ」


 体格の大きい男が息を呑んで少女の両肩を握る。


「おいおい。お前が先にやると目玉や指なくなるじゃねえかよ」


 別の男が笑いながら少女の顔を覗き込む。少女は涙を流しながら目をグッと閉じて幼子を抱えている。


 少年が半身を起こして男達に訴えた。


「離しやがれこの野郎!」


 少年の近くに居た男がうんざりするように銃を少年の頭に向けた。


「うっせえ。死ね」


 例え最期だろうと少年は信念を込めて相手を睨むが、銃口はゆっくり下へと向いていく。それは少年の頭から一気に地面へと降りていくと、地面に武器ごと断面から血が噴き出す腕と共に落ちる。


「はっ?」


 意味が分からずに腕がもがれた男が唖然と立ち尽くすが、次の瞬間には体は更に四肢がもがれ胴体は裂けて、そこら中に鮮血を残した肉塊へと変わる。


 残った男達も同様に体を大きく裂かれて絶命していく。それからようやく遠くで小さくバララ……と発砲音と共に少し遅れて路地の空をドローンが通り過ぎていく。


 二人はキョトンとしてドローンが飛び去るのを見送った。


 ―――


 ファイバーアーマーの本来の用途は装着者の身体強化ではない。これは指揮者の生存性を高めるためのアシストに過ぎず、搭載された戦術統合コンピューターが広範な戦域の無人機やドローンへの命令を行うことにある。


 通りへと機銃掃射して逃げ込んだ敵を、逃げ場のない路地へと追い詰めてからとどめの機銃掃射。散発的な武装者達はあらかたこれだけで鎮圧されていった。


 一方で衛利の居る大通りではその中央にフォーメーションを組んだ重装ソルジャー達が闊歩しており、その中心にいる衛利の脳内にアイギスから警告が発せられる。


【前方スナイパー。スポット】


 アイギスからの情報を受け取った衛利は、重装ソルジャーの一歩手前でコイルガンをチャージさせる。ルート上に待ち伏せる狙撃手等をドローンが索敵して一瞬でチャージが完了したコイルガンを向けた。


 道路の瓦礫に身をひそめる彼を衛利の視界は赤裸々にロックする。


 ドローン索敵とファイバーアーマーの動作アシストとアイギスによる神経の連動によって、無比の精度を手に入れたコイルガンがただ真っすぐな弾道を描いて狙撃手を貫いていた。


「掃討作戦のどれだけ進んでる? あと避難民は?」


【本作戦領域外の武装テロリストの掃討は60%完了。武器の破壊も同時に行っています。避難民を指定したセーフゾーンへの移動も行われ始めています】


 ここの邦人ならもちろん義越に参加する人もいるだろう。だが、普段から剣の会を目の敵にしている人々が居るのもまた事実だった。彼が無謀な戦いを始める前に、まずここから離脱させること。


 進んで降伏する者も受けいれた。ハードルを下げることで戦闘の意思の無い者達が戦場から消え去る。だが、それには相応のソルジャータイプを必要とした。


「ソルジャータイプの増援は?」


【第3弾が40体。15分で到着予定】


 プリンターをフル稼働させた新規製造ではやはり戦域全てをカバーするのは難しいように思えた。


「……アーコロジーの余剰フレームの転用を行って可能な限り全て」


 正直ダメもとで問いかける。サービスに従事する汎用フレームはほぼ従事しているか、レストアにかけられるのだから。


【542体の余剰が確認されました】


「542体!? 今すぐそれをソルジャータイプに転用して!」


 衛利は驚きを持って目を見開くととも胸をなでおろす。これだけあれば更に多くのエリアを制圧することも出来る。


【すべてが展開するまで1時間はかかります】


「了解。ともかく予定通りに商業跡地への侵攻を開始する」


 どうしてこれほど余剰の汎用フレームが発生しているのか。衛利はそこまで考えることはしなかった。今は一つでも使える手駒が欲しかった。


 ただそれだけだった。


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