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ブラックスワン  作者: 鴨ノ橋湖濁
アーコロジー
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偽りの王の最期

 ホログラムが部屋中で輝くオフィスの中で、体を震わせる近衛は机に両腕を叩きつけた。後ろで控えるメイドが囁いた。


【ただいま追撃部隊を編制しています】


「さっさと追え。全くあいつらはいったいなんなんだ」


 今日は腑に落ちないことばかりだ。まず利府里衛利の暗殺が達成されなかったことや、突然現れたただ協力者と言うだけでアーコロジーを侵入した女と、更にはソルジャータイプをかく乱するような装備を持ったサイボーグの存在。


 ふと感じる不安感。それに近衛は居ても立っても居られなくなり、椅子から立ちあがってメイドに詰め寄る。メイドは一切の表情を崩さずに近衛を見ていた。


「なぁ。おれはどうしたらいいんだ?」


【明確な目的が分かりません】


「分かるだろ!」


 感情が抑えきれずに近衛は叫ぶ。それからオフィスに置いてある筒を取り出してタブレットを飲み込んだ。


「俺は執政員だぞ。このアーコロジーや付近一帯の支配者だ。イヌモと言う絶対的な存在の重要な存在だぞ。お前たち道具が役に立たないから、たった女二匹を取り逃がしてしまうかもしれないんだぞ」


【そのための編成をただいま行っています】


「からかっているのか!」


【そう捉えられたのであれば謝罪いたします】


 スカートの両端を掴むメイドに近衛も少し落ち着いたのか、鼻を鳴らして侮蔑的な目で見下した。


 その時。もう一人男の静かな笑い声がオフィスに鳴り響いた。近衛はビクリとして部屋の扉側を振り返る。しかし、視界はホログラムに遮られて奥を見ることは出来ない。


「だ、誰だ? ホログラム消せ……おい。ホログラム……消せ!消すんだ!」


 ホログラムは消えない。ずっと疾走するラングレーやソルジャーを蹂躙するアリスを映すだけ。


「近衛さん。あなたと33の関係はそんなに上手く行っていないようだ」


「一体誰だ。姿を現せ卑怯者め!」


「33。ホログラムを切ってくれ」


 男の意思でホログラムが消える。近衛は少し後ずさった。


 近衛と同じビジネススーツを着こなしてはいるが、新品同様の近衛とは対照的に、どこかほつれて色褪せたスーツを着た男。


 その顔にはピエロのお面をつけ、手にある回転拳銃を眺めて愛おしそうに撫でている。


「あの時のままだ。結局あの子は私を撃たなかったな」


 回転拳銃を見た近衛は更に震えあがった。


「お、お前。それはどこで見つけたんだ。最重要保管庫にしまったはずだ。誰にも届かない場所に」


「さっさと処分すれば良かったものを、勲章のつもりですか?」


 回転拳銃を突きつけらると、近衛は情けない声をあげてメイドの盾にして窓ガラスを背にした。


「や、やめろ!私が何をしたって言うんだ?」


「特に何も。予定通りにあなたは退場する」


「予定通りに? ふざけるな。いったい誰の計画で」


 受け入れられないように首を横に振った近衛。


「33。あなたの口から話されてはどうかな?」


【そうしましょう】


 メイドは近衛を投げ飛ばして地面に叩きつけられた近衛は這いつくばってオフィスの隅へと逃げ込んだ。


【近衛執政員。あなたは自身が執政選挙に選出されるために自分の甥、利府里司徒を殺害するように依頼、私の支援を受けたケドウが殺害を実行しました】


「そ、その記録は消せと……それに実行犯は全て消したと報告を」


【ええ。他の人間は消しました。ただし実行したケドウは別の依頼として】


「嘘をついたと言うのか!? 私に!」


 目を見開いた近衛はメイドを睨む。メイドはいいえと否定する。


【あなたのオーダーで利府里司徒殺害計画のサポートを発注し、私個人の出した別のオーダーを作成し、ケドウ一人で実行させました】


「そ、そんな馬鹿な。じゃあなぜ僕と言う過程を経るんだ? そんな最初から権力が欲しかったのなら。司徒を殺して終わりでよかっただろ」


【あなたは我々の行動に疑問を持たないからです。利府里司徒は常に我々の提案や過程をチェックするようにしていました。常に過程をチェックし、結果に対しての評価を怠りもしませんでした……】


「やめろ!俺があいつなんかに劣ると言うつもりか!」


 近衛は拒絶した。


「しょせん本流から別れた分家のあいつに!俺が負けるって言うのか!? この席にあいつの方が相応しいと」


【そうです。執政員が彼なら私たちも本来の目的を達成する障害となったでしょう】


「……」


 唖然としてへこたれた近衛にケドウは近づいた。


「あなたは5年前から詰んでいたんだ。偽りの王座」


 カチャリと音を立てて撃鉄を起こした音を近衛ははっきり聞き取った。


「は……ははは。とんだ茶番だ。本当は俺を逃がすつもりなんだろ」


 伸ばされた銃口は近衛の頭部に合わせられる。


「す、すぐに世界中の人間達はお前のすることを知るだろう。それを許すと思うか。これは反乱だ……」


【あなたの思うように人々を操ったように、私の思うように情報を操れば、あなたは人々の中では生き続けるでしょう。今、あなた殺されたことすら人々は気づかない。今日の夜も、明日も明後日も、あなたは画面の中で生き続けるでしょう】


 顔面蒼白になった近衛は過呼吸になりながらケドウに向かって口を大きく開けた。


「この殺人者!卑劣なテロリスト!お前なんか長くは続きはしな……」


 一瞬起きたオレンジ色のフラッシュの後に静寂がオフィスを包みこんだ。


「長続きするつもりはないよ」


 ポツリとケドウは呟いた。


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