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ブラックスワン  作者: 鴨ノ橋湖濁
アーコロジー
59/91

活路


 白いナイフの柄の底を連結させると、柄の中にある疑似筋力繊維が伸長して硬質化する。それで槍を作り出したユリアは再び衛利を見やると、兜の割れ目から覗く瞳は完全に見開かれ固定されていると言うよりこじ開けられている様だ。


 瞼は決して微動だにせず、ただ眼球を濡らすだけの役割を担うだけで、感情や動揺も感じ取ることは出来ない。


 お互い様子見をしている間でも衛利の傷からは血が滴ってくる。それでもあの兜は衛利の体を限界以上に動かすことを止めないのは明白だった。


 怪我があろうとなかろうといずれ衛利の体は損壊するまで使われるだろう。


(33。あの兜の弱点はどこにある?)


 もはやパラディウムではなく直接33に思考で問いかける。パラディウムには自分の神経の全て預けて、つけ入るスキを与えないようにする。


【あの兜にはうなじのファイバーアーマーのCPU本体と接続されている。その上にある頸部付近が兜のCPUがある。他の部分は気にしなくていい】


(それでどう状況を打開する?)


【利府里衛利単体ならば負けないようには出来る。ただ兜は33の戦闘プログラムを適用している】


(お前の方から止めれないのか?)


【無理だ。近衛執政員の権限だから】


(全能な風に振舞ってるが案外そうでもないのかよ)


 衛利の体が前のめりになって飛び掛かる。ファイバーアーマーのスラスターとパワーアシストがあれば間合いなど1秒もなく縮んでいく。ブレードの黒い切っ先が再びユリアに襲い掛かるが、槍の長いリーチを活かして離れた場所で切っ先を弾く。


 槍のリーチを殺そうと衛利は更にユリアとの距離を詰めるが、すぐさまユリアが槍からナイフに戻すと、一方でブレードを受け止めもう一方で反撃に移る。


 もちろん狙いは頸部の兜のCPU、首の後ろを狙う。それを衛利のブレードを持たない左手で腕を掴み防がれる。


 その間でもブレードの刺突は止まずに、その都度ユリアもナイフで弾いていく。


「衛利!いい加減にしてくれ!」


 届かなくても大声で呼びかける。衛利のためではなく、まるで自分に言い聞かせるように。


 ファイバーアーマーで強化された身体能力も、同じファイバーアーマーでは力比べは無為に消耗を強いるだけだ。掴まれた腕は既にこのまま骨ごと握りつぶされそうになって、痛みと言う名の悲鳴をあげている。


「ちっ。これじゃあ持たないな。二人とも!」


 それでも一つだけ衛利のアイギスと、ユリアのパラディウムには決定的な違いがある。紫電を纏うパラディウムのイオンスラスターが発光すると、二人は打ち上げられるように引っ張り上げられる。


「これならどうする?」


 衛利のアイギスは全身に疑似筋力繊維が使用され、主に戦闘での機動に優れた一方で。パラディウムには疑似筋力繊維とボディアーマーの掛け合わせ、更にある程度飛行が出来る推力を備えている。


 その唯一の相違をユリアは使うことにした。


 腕を振り上げて掴んでいた腕を引きはがし、距離を離してスラスターを吹かす。ナイフをある程度の推力を持つアイギスも落ちるしか出来ないが、パラディウムはその推力で空中の自由が効く。


 実験施設の最上階5階程の高さから地上まで、その10秒にも満たない時間にユリアは全てを賭けた。


 落下していく中でも衛利はスラスターを吹かしてバランスを取り、既に滑空して襲い掛かるユリアをブレードでいなすが、受け流した衝撃でバランスを崩す、勢いのあるユリアは空中で受けた力をものともせずに、すかさず空中で反転して再度攻撃を仕掛けていく。


 再度の攻撃も逆にブレードを振ってきた衛利の攻撃を避けるが、大きく振りかぶった体にユリアが取り付こうとする。それも衛利はかかと落としでユリアを引きはがしてしまう。


「しまった……」


 息を吸い再び突入を開始するが、衛利は全てのイオンスラスターを停止し、何もしてこない。それでもユリアをじっと見つめている。


「だけどなぁ!」


(ああ、分かっている。お前は次で勝負をつけるんだろ?)


 二人の地面までの距離はもう数m。推力なく地面に叩きつけられればお互い無事では済まない。それならユリアの出来る行動は一つしかない。


 衛利の体を抱きかかえながら着地する。推力を吹かしていても衝撃は打ち消せず、ユリアの両足の骨に直接容赦なくハンマーを振り下ろされた衝撃と破砕をもたらした。


「っ!……」


 そしてユリアの首に一本の黒いブレードが襲い掛かるが、まるで予期していたかのように手のひらでブレードを上から押し付けて首から右の鎖骨の下にある肩に切っ先が沈み込むと右肩を思いっきり締め上げる。


 ブレードを引き抜こうとしてもピクリとも動かず、倒れこむように左腕を衛利の頸部に忍び込ませる。


「つかまえた」


 紫電が走ると兜のCPUが焼ききれ、衛利の全身は力を失って目は力なく閉じられる。


「ら、ラングレー……」


 息も絶え絶えになったユリアは動こうとしても動けない。足は機能を失うほど損壊し、力をいくら入れたところでどうしようもないほど傷ついていた。


 衛利の敗北を受けてソルジャータイプが動き出し、専用の大型ライフルで狙いを定める。レーザーポインターがユリアも衛利も捉えた。


(もうダメか……?)


 直後にレーザーポインターは逸れてある一点に注がれる。ユリアも首だけを動かして見つめると、黄色い光がそこら中にばらまかれてソルジャータイプを包み込むと、ソルジャータイプはばらまかれた光に向けて発砲し始める。


 そして、ソルジャータイプの集まる地点に、真上から降り立った黄色い光からマズルフラッシュが発生するとソルジャータイプの残骸が積み上がる。


 立ち上がったパラディウムとほぼ同型のファイバーアーマーを着込み、両手に握る大型ライフルをユリアに向ける。


「……アリス?」


「ケドウの命令よ。あなた達を逃がせとね……でも次会う時は」


 言い終わらないうちに装甲車が前進し始め、後方から更に装甲車の増援が現れる。全身のイオンスラスターを黄色く発光させて戦闘態勢を整える。


 ラングレーが近寄りサブアームでユリアと衛利を自身の背中に載せる。背中に載せられたユリアは穏やかな顔でアリスに礼を言う。


「でも、助かった。ありがとう」


 ラングレーも体を前のめりに傾けてアリスにお辞儀をすると一声鳴くと、電磁ホイールを展開して装甲車とは逆の方に爆走し始める。


 一人残されたアリスは装甲車に大型ライフルの銃身下にあるグレネードランチャーのロックを解除する。


「……あなたは誰にだって優しい。誰にだって。……あなたにとって特別だから、優しいわけじゃないのね」


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