虚しく叫ぶ
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新イラストです。お納めください。
納得するようにケドウがうなづいた。
「友達か。なれば大切にしないとな……まぁ頑張ってくれ」
そう言ってソファから立ち上がり去ろうとすると、ユリアに止められる。
「待てよ。どうして私の前に現れた。わざわざ33を使ってまで」
「私は、近衛のような人間が嫌いでね。どうせ頂点に立ってくれるなら、君にような人が良い」
「頂点? 私はそんなこと……」
「いずれそうなる。彼は利府里司徒の殺害で一番利益を得た男だ。彼の今座っている椅子には、本来は利府里司徒が座るはずだったのに、彼は君が例外的にここに入ることが出来た事に疑惑と嫉妬を抱えないわけがない。つまりそういう男だ」
近衛はそのうち排除しにくる。ケドウはユリアに暗にそう告げた。
「まるで会ったことがあるような言い草だな」
「会ってなくても分かるさ。歴史を覗けば既得権益が自分の利益を守るためにどう動くかなんてたくさん書いてある。近衛もそのカルマから逃れられることはない」
「だからって。私がイヌモの執政員になることはない」
「33が味方してもいかい?」
「私は権力の為に戦っているわけじゃない」
「でも安全のために武力を行使する権力がいるのだろう? だからここに来た」
「……」
「準備は、早い方が良い」
にっこりと口元を歪めるケドウに、ユリアは目を閉じてから、また開いた。
「もうお前の話は聞きたくない。これだけ持ってどっかいけ」
胸元から出したのは一通の手紙。差し出されたそれをケドウは受け取る。
「シスターグランマからだ」
「……今更」
先ほどの笑みから一転して、自然な表情になった彼は手紙を返そうとするが、ユリアは決して受け取らない。しばらく睨み合いが続くがケドウは諦めて手紙をスーツの胸ポケットにしまい立ち去った。
それから店に活気が戻ってきた。先ほどまで無人だった店内には多くの人々と、愛想のよい店員がユリアに近づく。
「いかがなさいましたか?」
「いや。なんでもない。ごちそうさま」
なるべく店員の顔を見ないようにユリアは足早に立ち去る。もうここの何もかもが不気味で仕方がなかった。通りを歩く人も、きっとすれ違えば何の感覚もないのだろう。
「33。聞いているなら、この設定はオフにしてくれ」
そう呟いた瞬間。ユリアの周りには誰もいなくなり、ただ静寂な世界があるだけだった。
―――
ユリアが研究所に戻り。パラディウムを着込んで今ある武装をチェックする。
(ケドウの警告がもしも正しければ……)
きっと近衛は既に攻撃を計画しているのかもしれない。更に言えば衛利は無事に帰ってくるのだろうか。もう既に殺されてしまっていたら……?
悪寒がしてくるのを無理やり抑えて研究所を歩き回ることにした。いつ誰かが何をしにやってきても良いように、施設の中を把握したかった。
やはりどこまで行っても人は居ない。どこまでも静かな空間が続く中で、頭をよぎるのは利府里衛利と名付けられた。臓器のパーツ達。
培養容器の中で生きた細胞同士が培養され、組み上げられていく写真が、最後には見慣れた顔の面影がある少女になっていく。
「……」
今更ケドウに強がった手前。例え衛利が人の理から外れた存在でも、彼女は彼女だ。
そう自分に言い聞かせて施設内と登録されているマップが正しいかどうかの確認を行う。施設は迷路のようになっていて、施設にはあるまじき一本道の作りになっている。
1階にはゲストルームや生活空間があるが2階や3階へとエレベーターはなく。確実に1階1階を登らなくてはならない。
「迷宮だな」
人が来ていないと言うより、人間が来ること自体を想定していないと言うような感想を抱くが、結局2階より上の階はセキュリティがユリアの前を阻み、それは33の権限を持ってしてもダメだった。
『権利者の意識が存続している限り介入出来ない』
それが33の弁だった。
「利府里司徒は死んだんだろ? まぁ施設の権利者は他にいてもおかしくはないか」
独り言を呟いて一旦1階に引き返そうとした時だった。
【警告:装甲車両二台が接近中】
「おいでなすったか」
拳銃を抜いて、建物の窓へと目を走らせると念のために飛んでくるであろうドローンを迎撃出来るようにしておく。
しかし。
【装甲車両からロケット弾。直接照準】
「そうだろうな!」
相手の居場所が分からなければドローンによって様子をうかがうが、既に相手に捕捉されているなら話は別だ。手っ取り早く高火力を投射して相手の備えを粉砕する。
ロケット弾の進路に対して、パラディウムの神経操作で放たれた拳銃弾を置くように放ってはロケット弾を損傷させて破壊する。
「奴らの根城だ。分かっていて当然だな」
隠れる場所はない。最初から分かっていたことだ。それはこちらも一緒だ。
【敵車両からソルジャーが展開。数8】
「まずいな」
一体だけでも苦戦する相手が連携して8体もやってくるのだから、状況は絶望的だろう。ユリアの脳内に警告と共に第二波のロケット弾と、ソルジャータイプが携行する機関銃弾幕が1階のあらゆる構造物を破壊していく。
「しのげる部屋を選定してくれ」
【計算完了。ルートを表示】
ユリアが死を覚悟して、それでも階で火力点から最も離れた部屋に飛び込んで扉が閉まると、大きな振動と体の内側まで殴りつけられるような衝撃が襲い掛かってくる。
最後に扉が吹き飛んで直線状にある壁へとめり込んだ。
「クソッ……」
舌打ちをしながら立ち上がるが、その時に一つの大きな影が飛び込んでくる。
「ワン!」
「ラングレーか?」
いつもの顔のないビッグドッグもどきに乗って跨るとラングレーは、ウェポンラックのランチャーから一発の弾頭を射出すると、一発は眩い光がはっせられ、残りは強烈な煙幕を発生させてユリアとラングレーはそこへと隠れる。
イオンスラスターをオフにしてラングレーの四肢のみで移動していくが、突然青い光が煙幕を照らし、脳内の警告のままユリアが身を避けると数発の弾丸が通り過ぎる。
反射的にパラディウムに身を任せ、拳銃で敵の獲物を撃ち抜こうとした時、ほぼ同時に敵のコインガンもユリアの拳銃を撃ち抜いて破壊する。
更に追い打ちにロケット弾が付近に着弾し、爆風で煙幕が吹き飛んでしまう。
「……」
ユリアには見慣れた青い光を放つファイバーアーマー。だが、唯一違うのはその頭部に被せられたヘルメットの存在。
「衛利なのか?」
短剣を抜き、紫電を発する一方でヘルメットの人物もブレードを抜いて構える。
「嘘だろ? おい!衛利!!」
虚しくフロアに響く呼び声はイオンスラスターの出力音にかき消されて消えた。




