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ブラックスワン  作者: 鴨ノ橋湖濁
アーコロジー
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アーコロジーへの道


 早朝、朝もやが掛かっている頃合いにラングレーに乗った衛利と、後ろにはユリアが腰かけて周囲を警戒していた。


『イヌモの治安維持部隊に教会が携わることが出来れば』


 ユリアがグランマに提案したことだ。この重要な時にユリアが離れるのは教会にとって危険だが、もしも衛利が帰りイヌモが教会への協力関係が薄れれば、教会の安全に関心を払われなくなる恐れがある。


 だが、教会にはアーコロジーに入って直談判出来る人間はいない。そこでユリアは「33」を使った。あの病院跡で接触した「33」に請うたアーコロジーへの入場権利を既に持っている。


 衛利は疑問に思ったようだが、パラディウムに入っていたと言うと、納得はしてなさそうでもこれ以上は言及しなかった。


 このことは教会にも、衛利にも秘密にしている。


 朝焼けと街の影を交互に通っていくが人一人いない、恐ろしく静かな一本道だった。空には通信ドローンが暗い空の方角で輝いている。


 わずかな死臭を放つ黒い袋や、配送ドローンの残骸が道端に並ぶように落ちて、歩道には乾いた血が命を奪う量とすぐに分かるぐらい広く染み付いている。


「なぁ衛利」


「はい」


「アイギスがないけど。怖くないか?」


「質問の意味が分からないです」


「ああ……今、私はパラディウムを着ているから、周りの状況が分かるけど生身の感覚だけで衛利は不安にならないか?」


 衛利が今身に着けているのは、教会に合った防弾ベストぐらいで、最先端の装具であるファイバーアーマー「アイギス」はない。一旦剣の会で拾われた後に、イヌモに返還されたようだが。


(まず人間が先じゃないか?)


 イヌモと剣の会との間での事情は知らないが、何となく衛利より装具を優先しているように感じてしまう。


「いえ、怖くはないです」


 恐れていた剣の会から襲撃もなく、二人は川にかかった橋へと至る。目の前には川と、それから郊外とは比べ物にならない巨大な建物が並んでいる。


 朝焼けに反射するガラス張りの輝きと、空に浮かぶ大小様々な大量のドローン群が周辺を飛んでいる。そんな景色に見とれながらも、橋へと至る道にいくつかのソルジャータイプが鎮座している。


「あれは警備用ですよ」


「分かっているさ、だがな……」


 安心は全くできなかった。恐らくケドウも「33」の絶大な権限を使ってテロを起こしているのなら、ハッキングされたのがいつ襲い掛かって来てもおかしくはない。


 二人はソルジャータイプの警備する両脇を素通りして橋の上を渡っていく。川と建物の反射で視界が光に包まれる。なんだか懐かしい感じや、久々に朝をじっくり堪能しているような、謎の充実感をユリアは感じていた。


「綺麗だな」


「綺麗?」


「……気のせいだ」


 衛利は真っすぐ道を見て景色には興味がなさそうにしている。


「アーコロジー初めてだから、どういう生活しているんだろうな」


「全て汎用フレームが案内してくれます」


「案内か」


 1分程で橋を渡り切れば、そこには誰もいない。立ち並ぶ建物が間近でそびえて居るだけだ。


「人が居ないぞ」


「アーコロジーで出歩きませんよ。それに今は朝の9時にもなっていないんですから。皆寝ています」


「なんだ。じゃあ一斉に働くのか?」


「ここに住んでいる人たちのほとんどは、働いていません。違法ですから」


「どういうことだ?」


「必要な役職以外の就労は、非効率的な物とみなされれば違法になります」


「非効率が罪なのか?」


「ええ、限りある資源を人間ではなく全て機械が管理運用した富の上に、このアーコロジーは成り立っていますから」


「……」


 まっすぐ進んでいく先に見えてくるセントラルタワー。都市の中心に天高く伸びる。イヌモと言う巨大企業の目に見える形の権威。それがあらゆるものを見下げている。


「衛利はこの後にどうするんだ?」


「分かりません。実戦データはアイギスが全て保存してありますから、それらのフィードバックを試す為に、また実地試験をするかもしれません」


「到着したらすぐか?」


「一旦、研究所に向かいます」


「研究所?」


「私の、……いえ。利府里司徒が割り当てられた施設です。私の育った場所です」


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