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ブラックスワン  作者: 鴨ノ橋湖濁
港湾編
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当座の目的

 朝日が昇り始めた頃。昨夜に客人への付き添いにあてがわれたユリアは、食堂で朝食をとりながら客人と向かい合っていた。衛利も流石に常時ファイバーアーマーを着ているわけでもなく、ノースリーブのアンダーウェア姿だった。


 周囲には修道服姿の女性が大半だが、教会がイヌモに発注している制服姿の子供達の姿も多くあった。


 ハムエッグとパンとサラダ。これが教会の毎日の朝食でユリアは少しばかりの接触を試みていた。


「やっぱりアーコロジーで普段食べているモノとは違うのか?」

「ええ。普段はブロックやゼリーだけですから」


 素っ気ない回答。余り親しくするような意思はないようだと分析しながら距離を測る。一方で衛利は急がず上品に食器を使いこなし食事に集中している。


「それにしては綺麗な食べ方だな」

「食事の作法は訓練してきました」

「……」


 対照的に適当にフォークで刺しまくっているユリアは、なんだか居心地の悪さを感じていた。



『次のニュースです。先日イヌモ九州議会は昨今の企業圏に周辺で活発化するテロへの対策に、カウンター部隊の派遣を可決しました。一人のコマンダーを軸にした犯罪からテロ、小隊規模の戦闘まで柔軟に対応する機動性が高い……』


「あんたの任務か」

「ええ」


 素っ気ない即答に呆れたユリアはこれ以上本質的ではない話題に突っ込むのをやめる。


「悪かったよ。……そろそろ具体的に何をするかぐらいは話してもらっていいんじゃないかな?」

「それは人のいないところでしましょう」

「はいよ」


 掴みにくい頑固な客人からふと窓から何か大きな影を見つける。それはコンコンと窓のふちを叩く。


「なんだよあれ」


 窓を開けたユリアと目の前に飛び出してきたソレに肝を冷やす。


 衛利の乗ってきた巨大な自律型装甲二輪車。それが車輪を胴体に収納して側面に付随している4足アームで自立している。


「え?」


 前足一本を挙げるとフリフリして振っている。衛利は席に座ったまま目線だけ向けて紹介する。


「ラングレーって言うの」

「あ、ああ。そうなのか。なんだか……機械っぽくないな」


 困惑して語彙が飛んだユリアはそう納得するしかない。


「犬とかの脳をコピーしてるから。元になったデータはかなり遊び好きだったのかも」

『ワン!』


 ラングレーは応えてからお座りをすると、前足を組んでしゃがみ退屈そうに伸びのような動作をして。


『にゃ~』

「いやどっちだよ」


 ―――


 朝食を終えて衛利の部屋に戻る二人。部屋の隅に直立させていたファイバーアーマーが手首を掲げてると、ホログラムが部屋の中央に浮かび上がり立体的な地図になり。アーコロジーと呼ばれる都市から大橋を渡って郊外へと流れていく。


「まずは3か月前に郊外の港湾で定期的な臨検しすると。船から火器類が発見されました。船は人の手を借りない自律型でコンテナは自動搬入されるように組み込まれていました」


 衛利が指さすとホログラムの機能で指先からレーザーポインターが表示され、郊外近海の場所を指した。


「最初の目的は、港湾施設での情報収集。テロリスト達の武器の輸入ルートの特定と封鎖。又は破壊……」


 その言葉にユリアは突っ込む。


「待てよ。郊外に港湾なんて一つしかないし、そこに武器の取引があるのは分かった。だが、そこが配給ドローンの発信基地であることは知っているよな?」

「もちろんです」

「確かにあんたらにとっては郊外の人々の生活より、対テロの方が優先されるのだろうがな。止まったら偉い騒ぎになることぐらい『5年前の暴動』で分かっているだろ」

「リスクは承知していますし。なにより……」


 衛利が目配せするとホログラムが突如青い光を放つ。女性の音声が流れてくる。


【こんにちは。ユリア・ネスト。私はイヌモコーポレーションの統合補助機能を担います。33ダブリュースリーと申します。以後お見知りおきを】

「統合補助?」

【社員のプロジェクト遂行に辺り。それを実現する構想の提案、具体的な段取り、実施での細かい調整等をサポートしています】

「ほぼ丸投げじゃねーかよ……」

【利府里衛利は私の試算したリスクを基にして計画を立てています。1日の配給停止で郊外の人々がテロリストに与するよう考えるリスクはほぼ0に近い数値です】

「根拠はあるのか?」

【私は配送と監視ドローンを通じて、郊外の人々の動向を収集しています。そこから割り出された数値です】

「……まったく。金持ちだからって何していいわけじゃないんだぞ」


 ユリアの言葉と共に衛利が捕捉する。


「だからと言って個々人を常時監視しているわけではありません。ただ今から行こうとする港湾組合の人々の噂等は、現地の人にしか分かりません」

「……下種野郎共さ」


 憎々し気にユリアは吐き捨てた。


「確かに奴らはイヌモの配給以上に色々な物を取り揃えてくれているさ。正式にイヌモから認められずに配給を受けられない人にとって見れば生命線とも言っていい。だがな、利権と武器を盾にした構成員が好き勝手してる」

「分かりました」


 地図はネスト教会から港湾への道順を示す。


「私は今から港湾へと赴いて、組合から情報を仕入れます」

「下っ端が知っているとは思えないし、上の方が素直に吐くとは思えないが」


 ユリア含みがある言葉だが衛利はうなづく。


「可能な限り穏便に済ませます。いたずらに治安を乱すために来たわけでいのですから」

「……頼むぞ」


 釈然としないユリアも今更言うわけにはいかず納得するしかなかった。


「それと協力者である以上。安全を確かなモノにしなくてはなりません。ファイバーアーマーにはもう一着ありますから装備して下さい」

「へ?」


 あんなエイリアンがくれたような装備なんてと、心の隅では思っていた物を、自分が装備するとは全く思っていなかったユリアの声は余りに腑抜けた声だった。

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