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ブラックスワン  作者: 鴨ノ橋湖濁
過去からの誘惑
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地獄への道は

 オリジンは明け方の外で悠々と建物の屋上を飛び越える。疑似筋力繊維が躍動して細かく制御されたボディは高い出力と消音を兼ね備え、誰もこの巨体が飛び回っていることに気づくことはないだろう。

 ドローンだって飛んでいるがその存在が通報されることはない。

 次第に廃墟が目立ち始め、壁を乗り越えた先にある巨大商業施設の跡地。アーコロジー開発に最後まで経済で抵抗した地元の人間達の跡にオリジンは降り立つとバンシーが囁く。


「ここでいい」


 両手で抱えていたバンシーを降ろすと機械の体の腹部に穴が開いている。それでも彼女は自分で立ち上がり一点を見つめる。そこにいた機械そのものであるメビウス。彼の獲物である杖を地面につけて待っていた。


「入れませんよ。さすがに損傷した機体で皆の前に出るのは不安をあおりますから」

「分かった……」


 少し不満そうに承知する。オリジンは両手で自分の顔を指して指示を仰いだ。メビウスは呆れて首を落としながらも隠れ家の方向を指さす。


「あなたは地下施設の建設作業に戻ってください」


 無言でうなづいたオリジンがバンシーを心配そうに一瞥するとバンシーが「ありがとう」と言ったのを見てすぐ地下への階段へと駆け出して行った。

 二人がそれを見送るとバンシーの体は崩れ落ちる。そのままメビウスは傍に近寄り横たわる頭に杖先にあるサブマシンガンを向ける。


「説得に失敗するならしたで、あの娘を殺さなかった理由は聞いておきたいのですが?」

「……」

「体を戦闘システムに託すこともせず。助けに来たオリジンに逃げるように言ったのにも。心変わりですか?」

「分からない」

「さんざん報復心のまま突き進んできたあなたも。友人は殺せないと? それでは困るのです」


 言うだけ言うとメビウスは武器を下げる。建物の陰からケドウがソルジャーの両肩に足をかけて、肩車されて戻ってきた。


「おーい大丈夫だったかぁ?」


 何も知らない男は呑気に二人に向かってソルジャーの顔を向けさせて方向を転換させる。二人の前で飛び降りると膝を痛そうにしてゆっくりと立ち上がる。


「あいたた」

「ケドウ。今回のような敵対的な勢力への接触はもう止めた方が良いです」

「そうだな。こういうのは今回限りだ……だが成果はあったよ」

「成果?」


 バンシーに肩を貸したケドウはメビウスに笑顔を見せる。


「やっぱり僕は怒りに延々と身を任せられるような人間ではないようでね。あの女の子に教えられたよ」


 メビウスが詰問する。


「ケドウ!まさか降りるつもりではないのですか?」


 ケドウは首を横に振る。


「アーコロジー側が望んだことはもうすぐ起こるだろう。我々に出来る事はない。この憎しみ集う街を燃やすのは、もう叶ったも同然なんだ。じゃあ僕は次に何をすればいいかなんて考えていたんだ」

「あなたは働きの対価としてアーコロジーに行くのでは?」

「考えてもみなよ。助け合わずに殺し合うこの罪深い街が燃えるのは自業自得だが。これは構造の問題でもある」

「イヌモを敵に回すつもりですか?」

「報告するのかな? でも君のイヌモへの忠誠は深いとも思えないな」


 バンシーと共に歩むケドウ。メビウスはバンシーの反対側の肩を持ちあがる。


「もう私の怒りは洗い流されている。洗い流す力をくれた義理立てもこれ以上する気はない。僕はもう自由の身だ。だからこれからは、未来の話をしようじゃないか?」


 ケドウの表情は段々と明るくなる。その表情を見たメビウスはしばらく沈黙して呟いた。


「勝手な人だ」

「しがらみがいつの間にか取れた気分さ。僕は好きにしようと決めたんだ。留まる理由がなくなれば次のステージを目指すべきだ。君もそうしろ」

「今度は何をしようと言うのですか?」

「バッタの代案で、港湾組合から仕入れたウィルス培養セットがあっただろう?」


 またケドウの方を見たメビウスは彼の顔が天高くそびえるアーコロジーへと向いていることに気が付いた。


「ケドウ。結局あなたは……」

「自分でも哀れだと思うよ。ただ僕の善意の在り方はとことん人を傷つけることでしか表現するしかないんだ」

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