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ブラックスワン  作者: 鴨ノ橋湖濁
過去からの誘惑
40/91

魂の交換

https://twitter.com/nobumi_gndmoo/status/1288192688806719488

こちらオリジンのイラストになっております。


 病院の地下にある死体安置所にトボトボと質素な服を着たリナは足を踏み入れていく。朝起きればいつの間にか窓際に置かれていた手紙を頼りに、なぜか要塞のようなネスト教会の警備の薄い場所も併記され。その通りに進めば抜け出せた。

 そしてこの小さな旅路の最後が地下にある死体安置所だった。無機質な白い電気が照らす廊下を進み続けると、鉄で出来た重苦しい扉の前に立つ。

 つい立ち止まってしまうリナに応じるように扉が少しだけ開く。隙間から男の声がする。


「開いているよ」


 促されて扉を開ける。

 台の上に載せられた真っ黒い寝袋のような、人型に膨れ上がったチャックのついた袋。台の横にはその場にあったであろうパイプ椅子に座り直すスーツ姿の男が佇んでいた。


「よく来たね。私の名前はケドウ」


 ケドウはリナを見て、リナは横目で警戒しながら袋へと近づいていく。


「顔を見てみるといい」


 チャックを降ろせばリナも自然と一歩下がる。寝ているような兄の顔が曝け出される。


「破損した体の一部も繋ぎ合わせてある。良ければ持ち帰るかい?」


 病院の地下が振動が伝わり安置所の小物が床に落ちる。爆発音が地下に響き渡り反射的にリナは体を縮みこんだ。


「ユリアがたどり着いたか。のんびりは出来そうにないな」


 ケドウは立ち上がり、リナの傍に寄ってしゃがみこんでささやいた。


「君が、もし。お兄いさんの弔いと報復を望むのなら。私は君を応援したい」

「……」


 リナは答えない。


「私や君と同じような境遇の者も、皆それを望み戦っている。失った物の痛みをかき消したいがために」

「……」

「何かを果たす目的だけが君を癒す。そして、きっと、楽しくもある」


 リナはケドウを見つめ返した。


「あなたはそう言うけど。とても楽しそうに見えない」

「どういう意味かな?」


 ケドウは静かに聞き返した。リナは立ち上がってケドウに向かった。


「傷ついた人間ばかりいるから分かる。あなたの傷の癒し方じゃあ苦しんだままになる」

「つまり。報復では解決にはならないと?」

「うん」

「……」


 ケドウは答えることが出来なかった。しゃがんだままでリナに見下ろされるような形になっても彼は微動だにしない。


「お兄ちゃんが、私を助けてくれた時。私は確かにその時だけは救われたの。でもその後怖い人たちに追われて、結局……」


 思い返したリナは目に涙を浮かべながら訴えるようにケドウに問いかけた。


「あなたは誰かを傷つけるのが怖くないの? 報復だけが全てになったら優しい人なんて誰もいなくなっちゃう。みんな人殺しになっちゃうよ!」


 また施設が揺れた。ぱらぱらと脆い壁の一部がどこかで崩れ落ちる。


「私は誰にも報復なんてしない。もうたくさん」


 消え入るような声で告げると目を背けた。


「そうか」


 ケドウはその場で何回も軽くうなずいた。


「じゃあ君は。この報復でまみれた世界で報復を捨てるのかい? 誰かが君とは関係ない怒りによって君を傷つけようとも?」

「それは……でも」


 それ以上言えなくなりうつむいたリナ。ケドウは問いかけた。


「だけど殺すのも嫌だと?」

「……」


 無言は肯定として受け止められた。


「……ならもうこれ以上君には関わらないようにしよう。気をつけて帰ると良い」


 言い残したケドウは部屋から背を向けて立ち去ろうとする。リナはその後ろ姿をつい呼び止めてしまった。


「あなたが報復したいのはなに?」


 立ち止まったケドウは首だけ少し振り返ると静かに言った。


「実は報復はもう果たしているんだ。ただ、私には夢があってね。君の答えは参考にさせてもらうよ……戦いが止むまでここに居る良い。善人が死ぬのは忍びない。でも君も覚悟を決めなくちゃいけないこともある」


 ケドウは廊下の闇の中に消えていく。


 ―――


 廊下で紫電と黄色の閃光が互いに近づいては火花を散らして離れていく。

 もう更に一閃の火花が散ると槍は吹き飛ばされユリアが跳ね飛ばされながら距離を取ると同時にもう片手に握るレールガンを構える。

 バンシーもその場で片手で持つ両刃のトマホークを振り切ると衝撃で掠っただけで壁が剥がれ落ちる。そしてもう片方の手に持ったトマホークで放たれるレールガンの弾道を逸らす。


「ファイバーアーマーと同じ防御機構をもってやがるのか」

【電磁バリアと物理的な装甲の複合。レールガンでも拳銃サイズでは貫通出来ません】


 電磁バリアが強力な局地的磁場と強力な電圧による抵抗によって狙った場所からずらされ、トマホークがブレた弾丸を弾くのは容易い。更にボディは機械と来たものだ。


「もう諦めなさいユリア。生身のあなたでは勝てない」

「だったら本気を出すんだな」


 挑発してもどうにもならないことは分かっているが、言わなくては自分の気が済まない。この状況をうまくかわすにはどうすればいいのか。


(考えろまだ手はあるはずだ)


 相手が先ほど使った防御不可能の超音波攻撃は未だにする気配はない。その時点で相手が手を抜いていることは容易に想像出来る。


(アリスが、本気になる前に。どうすれば逃げられる)


 ユリアは頭を振る。


「いや。そうだな」

「何かするの?」

「ああ」


 再び槍を手に取りイオンスラスターを吹かせる。すぐさまインファイトに持ち込みバンシーは飽きれたように目を細める。正確無比な腕振りによって殺人的な勢いがついたトマホークがユリアめがけて振り下ろされる。

 だがユリアは体を反ってそれを避けると槍を突き出すと、バンシーがもう片手のトマホークで防御する。両腕がまるで別々の生物の如く動く不気味な動きと共にバンシーは語り掛ける。


「敵わないのは分かるでしょう? 体の作りが違うのだから」

「元から承知だが? ところでそれで勝てるのか?」

「何を?」


 バンシーが気づいたときにはもう遅かった。ユリアは懐にくさびを撃ち込み、ほんの一瞬だけで十分だった。ユリアの攻めに応じて距離をとらなかったことだ。

 片手は振り切り。片手は攻撃を受け止めている。

 電磁バリア効果の範囲より内側からレールガンが撃ちだされる。


「この距離からじゃあ!電磁バリアで逸れる前に直撃だろ」


 バンシーの脇腹に向かって何発かレールガンを直撃させた。被弾箇所が白熱して装甲の一部が溶解する。


「クッ……ユリア。あなた」


 後ずさるバンシーを更に追撃しようするが攻撃の隙を晒したのはユリアだけではなかった。バンシーが振り切れた方のトマホークを再び振り切るがそれもまたユリアはしゃがんで転がりこんで避ける。


「やっぱりお前……戦い方は素人だ」


 ユリアはその隙にもう数発のレールガンを叩き込んだ。バンシーは毒づいて振り回すがユリアは避け続ける。


「クソッ!」

「もうやめろ。お前は元から戦うような奴じゃない」

「うるさい」

「だったら壊してでも連れ戻してや……」

【警告:接近する所属不明機体】


 ユリアの後方から突然警告と共に反応が接近する。


「またかよ」


 少しユリアが振り向けば。その赤い瞳は見た物の網膜に焼き付くように灯っている。その姿を見たバンシーも少し怯んだ。


「オリジン?」


 バンシーがつぶやいた言葉がユリアの耳に入った。


 疑似筋力繊維で覆われた巨人。それがオリジンと呼ばれる機体の第1印象だった。


「バンシー。こいつ敵か?」


 ユリアを指さしたオリジンにバンシーは首を横に振った。


「……いいえ」

「分かった。でも怪我してる一緒に帰ろう」


 無機質な言葉遣いをしながら一歩一歩闊歩する姿にユリアも自然と歩を下げていく。


「なんだこいつ……」


 唖然としながらユリアはただ赤い光を放つ機体がバンシーを抱え上げて去っていくのを見ている事しか出来なかった。パラディウムが警告するまでもない。

 今アレと戦えば死ぬ。それだけは確かだったからだ。ただどうしてバンシーはユリアを敵とアレに認識させたのだろうか。


「アリス……本当にお前は」


 アリスの何かを思い出そうとする過程でユリアは思い出した。


「そうだ。リナは?」


 そして先ほどの惨状を見てユリアの顔から血の気が引きながらも病院内を駆けずり回った。


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