悪夢の続きを
短いけど許し亭許し亭
廃墟から既に数年の時が流れた中央病院の外壁の過半は焼け焦げており、略奪され尽くしてはいるが雨風を凌げる貴重な大型の建造物から、ボーダレス商会に与する武装勢力の本拠地として機能していた。
しかし……。
硝煙と焼けた肉の香りが院内を漂っていた。ここに住んでいた全ての戦闘員は突然の襲撃によって老若男女問わず皆殺しにされ、その遺体は先ほど武器を持っていた十数体のソルジャータイプが血を拭き取ったり遺体を目立たない中庭に投げ捨てるなどして片づけていた。
フロアをコツンコツンと硬いヒールのような鉄の足で通る女が歩く。今のバンシーは普段はコートで隠されている姿をさらけ出していた。その体は汎用フレームと同じ規格の部品を使われているが下あご部分から上が有機的な頭部が繋がれている。
彼女はとある病室へと入ると病室の窓から朝焼けを眺めるケドウに声をかけた。
「終わった。あとは彼女を待つだけ」
「ああ、ご苦労だったね」
「随分中途半端なところね。屋上の方が見やすいでしょう」
「ここに少し思い出があってね。かつてここから窓の景色を見ていたよ」
「そうなの」
ケドウは窓から踵を返すとバンシーのコートを丁寧に畳んでいた状態から広げて手渡した。
「ボーダレス商会でも少なくとも数時間は異変に気付かないだおる」
バンシーがコートの前を留めながらうつむいた。
「あなたがわざわざここに来る理由はこのため?」
「半分はそうだ。あと私はあの子が自分の考えに共感してくれると思っているんだよ。それに君も……」
つい口に出たことを少し言いにくそうにして続ける。
「来るとおもうかい?」
恐らく手紙の宛先人ではない人物を二人は思い浮かべていた。
「来る。あなたが居ると分かれば」
「ふむ。どうやら私は良い囮のようだ」
「承知の上でしょう? でも、全てが終わる前に、せめて話だけしたい」
「いいよ」
メビウスと話すのとは打って変わって親しいより砕けた言葉遣いでケドウは病院の地下へと消えていく。
「餌の死体は遺体安置上に置いておいて」
ある死体袋を持ったソルジャーにその旨を伝えるとバンシーは手のひらからホログラムを出して病院の立体映像が映し出すと仕掛けの確認を済ませる。
「……ようやく。あなたに会える」
立体映像から平面の映像に切りかえると巡回ドローンから送られてくるユリアの映像が映し出される。
「私が生きていると知ったならきっと驚くでしょうね」
目を細め。そして天井を仰ぐと思いっきり拳を握って映像をかき消す。
脳裏によぎるのはあらゆる残虐な殺し方をしてきた死体達。わざわざ損壊した自分の体から検出された体液の生体情報をかき集めてデータ化し、置き換えられた自身の手によって過去の報復を果たしてきた。
「あとはあなただけよ。ユリア……」
そして最後の一人。あの日に関わる最後の一人へ清算するために。手を伸ばした時、何もしなかった友への報復を。
「殺すのよ。今から」
自分に覚悟を促すようにバンシーは呟いた。




