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ブラックスワン  作者: 鴨ノ橋湖濁
集中攻勢
33/91

正当と不平

 巡回するドローンが衛利たちにテントで起こっている惨劇を伝えたのは、シゲオが射殺されたすぐ後だった。しかし、二人ともすぐに動くことが出来なかった。衛利もユリアも今目の前に起こることに追われ、少し離れた大事に対応することも出来ない。

 結局シゲオは先に義越を撃ったのだ。パルスガンで撃たれて出来た青と赤が混ざった打撲痕に医療シールを貼り終えた義越、彼は立ち上がると武器を取って衛利へと向く。


「利府里さん。今の事に我々に罪がありますか?」

「……いいえ。今の件は緊急措置として認めます」

「よかったです」


 ふと義越が衛利の顔を見ていることに気が付いた


「なにか?」

「え、いや。なんでもありません」


 指摘されて初めて義越も自分が何をしているか気づいたようだ。衛利がシゲオに振り返ると、無惨な姿となった亡骸に縋り付いたままの妹、その傍にいるユリアに囁いた。


「私は鎮圧に行きますが、この子を」

「任せてくれ一旦教会に預けにいく。ラングレー使うぞ」

「はい」


 遺骸から引きはがされたリナを担いだユリアが大通りへと歩みだすと衛利は義越を追った。義越達はしきり現地に派遣している巡回班にコールしているようだが、通信が繋がっているわけではなさそうだ。

 義越が衛利へと向くと状況に対して落ち着いた態度で願い出る。


「すみません。今の状況がどのようなものか共有願いませんか?」


 衛利はもちろんそのつもりで手のひらに浮かべたホログラムを義越に差し出すように表示する。

 映っているのは巡回ドローンから上からの映像を立体化したもので、逃げ惑う人々がフルフェイスのヘルメットを被り銃器を持った剣の会の面々が手当たり次第に銃撃を加えている。


「なんてことだ……!」


 義越がこの映像を見ると苛立って吐き捨てる。今度は部下たちにハンドサインで合図すると、すぐさま一列の縦隊となって駆け足で向かい始める。

 衛利はすぐさま理解した。例え部下だろうと義越はその場で処断するつもりである。衛利はすぐさま義越の隣で提言する。


「殺す気ですね?」

「奴らは私たちを貶めた。何か異論でも?」

「なぜ彼らはこんなことを? 心当たりが?」

「聞いてどうするんですか」

「彼らが我々の追っているテロリストに扇動されている可能性が否定できません。原因だけでも聞き出せないでしょうか」

「……分かった。まず投降は呼びかける」


 少なくとも話は通じる義越に衛利は安心してコイルガンの出力調整を低めに調整する。アイギスがすかさず軽く警告を送る。


【予測される敵性脅威に対して武装出力が不足。推奨されません。本ユニットの生存率を最大化してください】

(提案は却下……)


 衛利はハッとして注意を退けるが理由を手繰り寄せるように述べた。


(……不必要な殺傷はかえって協力者への不信を募らせる。尋問のために可能な限り捕縛を優先する)

【弁解を許可。オフィサーに申告】


 広域に火が立ち上り始めると、狭い範囲であることに対して様々なセンサー類に干渉する。


(動員可能な巡回ドローンを全て要請。量子センサー搭載型も支援を)

【要請を許可。周辺ドローンに緊急シフト及び量子センサー搭載型も順次発進】


 ―――


 血濡れた穴あきのテントが燃え上がってもサブマシンガンによる銃撃は絶えなかった。散り散りに逃げ出したホームレス達も周辺を封鎖する剣の会メンバーへと出くわした。

 一人の女が封鎖するメンバーの前で願い請うた。


「通してください!あの中に殺人鬼がいるんです。あいつら狂ってる!」


 女の目の前にいる背の高い男は困った顔をするが辺りを見渡した無線機を装備した若い通信手が本部と連絡を取ろうとした時。


「……一度封鎖を解けってさ」


 すぐに彼や周囲のメンバー達が封鎖を解除して女をはじめとした逃げ惑う人々は脇を通り抜けていく。


「味方殺しの犯人が射殺されたってさ」


 それを聞いたメンバー達は胸をなでおろして武器からマガジンを抜き始める。


「ああでも封鎖は2分後にまた張り直せって」

「どうしてだ?」


 背の高い男が呑気そうに聞き返すと通信手がばつの悪そうに答える。


「内側で起こったことは巡回班の暴走したってさ。今度はあいつらを捕まえるらしい。後継者様からの命令さ」

「はっ!後継者様ねぇ」


 嘲笑うかのように苦笑いする。


「会長もそうだが俺らと同じ場所で暮らしもしない人間が。自分達の都合で俺らを振り回すんだからたまったもんじゃねえよなぁ」

「おいおい。俺たち誰に食わしてもらってると思ってんだよ」

「そうだなぁ。バカ高い戸籍料払わないと飯もくれねえような金持ちよりかはマシか。中で狂ってる連中の気持ちも分からなくねえよ」

「そこまでにしとけよすぐに2分経つ。それと本音だからって誰にも聞かれるなよ。俺まで連座されちまう」

「お前もあのラジオ聞いたろう。大っぴらに言えないけどな。誰も俺たちの事なんて理解する気ないんだ」

「疲れてんのか? ネガティブだぞ」


 通信手が心配して話しかけるが背の高い男はいらないと手を振って、拳銃の薬室を確認して再び封鎖をまでの時間を待った。

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