ネスト教会との接触
ネスト教会の代表シスターグランマは質素な修道服に身を包み、露わにしている白髪を綺麗に後ろでまとめていた。腰が曲がりかけているほど老いてはいるが、見える者を穿つような大きな目は未だに輝いてるような印象を与える。
ユリアに応接室へと案内されたファイバーアーマーを纏ったままの衛利はグランマと対面していた。
「では、ごゆっくり」
ドアノブに手をかけ退出しようとしたユリアにグランマは待ったをかけた。
「ユリア。ここにいなさい」
「はい」
意図が分からなくとも即答し扉の前で立ち尽くす。グランマは衛利に向き合うと優し気な口調で話しかけた。
「話は前から聞いたとおりです。一定の寄付金をしていただくのなら、我々は一室をあなたに解放致しましょう。ただし、厄介ごとを持ち込んだり……」
一瞬目を伏せてから再び目を向ける。
「【狩猟行為】を確認された場合には。即時退去とイヌモ司法に問い合わせます」
「心得ております」
抑揚のない言葉で衛利は返し、グランマも軽くうなづいた。
「一応お聞かせ願いたいのですが。あなたがわざわざ快適な中央区から、郊外へとやってきて治安維持活動に従事する理由をお聞かせ願いないでしょうか?」
「もちろんここに郊外での治安の安定です」
グランマは少しだけ目を逸らす。
「私が聞きたいのは建前ではなく。もっと具体的な理由をね」
「……」
衛利がしばらく沈黙してから話を切り出す。
「人間主義者。彼らをご存知ですよね?」
「……やはりそうでしたか。噂には聞いております」
グランマは驚きはしなければ首をかしげることもしない。
「ですが。彼らの大半はその日の糧食に困る人々と、それにつけ込む犯罪者程度で、そんなに警戒することもないでしょうから……」
衛利の言葉にグランマは首を傾げた。
「それは一部違うと思いますね。尊厳を傷つけられ、肉体的にも餓えた人間は超常的な何かに魅せられて。それを至上的な価値として愚かにも命を捨てて成そうとする。彼らを侮ればそれだけの代償を支払うことになります」
恐らく衛利に欠けている認識を徐々に改めさせなければならない。そんな老婆心からグランマは続ける。
「自分の価値を証明することが難しくなった人間は大半は諦観した人生を送りますが、一部はやがて崇高なる死を模索し始めます」
「分かりました。肝に銘じておきます」
食い気味で結論に走る衛利。ユリアの口角が一直線に伸びる。それでも衛利は淡々と述べる。
「御心配には及びません。彼らがどれだけ束になった戦力より私の所有する装備と機材だけで完勝することが出来ます」
「それならいいのですが……。あと突然申し訳ないのですが、一つ提案させてもよろしいでしょうか?」
衛利の答えに心配そうにするグランマだが。元の口調に戻って提案する。
「地図や地形などは分かるでしょうが。例え貴方が郊外に繰り出そうとも情報や伝手がなければ、効率的な鎮圧は難しいはずです。そこで……」
ユリアの方にグランマが顔を向けると、ユリアは自分がなぜ呼び止められたのかをようやく理解した。
「ユリア・ネストをあなたの案内役として同行してもらう事に同意して頂けないかしら?」
つい「えっ」とした顔をしたユリアが横に目を向けると、自身の顔を見ていた衛利の存在に気付いてすぐに真顔に戻してそっぽを向いた。
「分かりました。試験用の装備をいくつか提供いたしましょう」