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ブラックスワン  作者: 鴨ノ橋湖濁
集中攻勢
29/91

悲劇の再生産

テント前でのヒロイン二人のイメージイラストです。

https://twitter.com/nobumi_gndmoo/status/1265001527019663362

 ケドウの根城とする地下街。LED電球が灯る中でケドウは、工具を持って傍らに浮かべたホログラムの設計図を見ながら。損傷したソルジャータイプの修理を行っていた。

 少し離れた場所では配給である缶が配られている。ケドウの元に現れたメビウスは缶を持っていた。


「おかえり。首尾は?」

「上々です。既に一件目の事件で邦人達は大慌てです。はい、いつもの」

「ありがとう。まぁた炊き込みご飯か」


 放り投げられた缶を受け取ったケドウが工具を置いて、缶のフタのプルを引いて開ければ。中に入っていたのは炊き込みご飯と、埋め込まれている合成アルコールのゲルに包まれた小さなミニチュアサイズのスプーン。

 たちまち外気と反応した合成アルコールが蒸発すると特有の臭いが一瞬ケドウの鼻を通り、徐々にスプーンが膨れて持ちやすい大きさに変化する。


「いただきますと。レーション生活も長く続けばまた脱走者も出るな。味付けが濃くてかなわん」

「港湾は抑えられた以上、これまでのような新鮮な物は難しいですからねぇ」

「脱走者が出たからご機嫌取りに手作りカレーにしたりもしたが、トラックで直接やドローンで輸送なんて事も出来ないし。オフィサーも地下鉄の輸送を拡大してくれたらな……」


 しょんぼりするケドウにメビウスは手元からホログラムを浮かべと、ケドウは手を振って止めさせる。


「やめろやめろ。みんなの前で見せるようなことは。一応ソルジャータイプだって我々の活動ではなくて、警備のためだって嘘ついてんだから。執務室で見るよ」


 彼が執務室と信徒達から勝手に呼ばれている部屋へと足を運ぼうとした時だった。

 子供たちが彼を呼び止めた。子供たちは色々な色の肌をして顔立ちも様々だった。


「ねぇケドウ様」

「どうしたんだい? それと様はやめなさい」


 ケドウが膝を抱えて子供と目線を合わせる。


「あのね。ケドウ様が話してくれた聖書のソマリア人の話をね。みんなで劇しようと思うの」

「あ~それはいいね。みんなで練習してるんだ」

「うん。また言うから見に来てね」

「もちろん!楽しみにしているよ」


 楽しそうに笑うケドウと彼の嬉しそうな様子に子供達も自然と笑みがこぼれている。

 子供たちが去り、執務室と言う名の防音の個室へと入る。メビウスは再びホログラムで今の状況を伝える。ドローンから撮影された少年がアップされ、右手にはヘビのように巻き付いた兵器が見えた。


「初めての使用者は17歳の少年のようですね。スキャンでは相当低い幸福度でしたから」

「それで? どうしてるんだい」


 地図が映され、高架橋の近くに存在する多くのテントが並んだ地域に赤い点で反応が出ている。


「ホームレス地域へと逃亡を図っているようです。それと妹らしき少女を連れているようで逃亡に支障が出ているようです。剣の会は……ケドウ?」


 突然口を押えたケドウに声をかける。抑えた手を離して「いやいや」と口元に笑みを浮かべている。


「妹と一緒に逃亡か。このことをあの二人は知っているのか?」

「もう位置を把握していますよ。今我々が見ているドローンは同じものですからね」

「大変結構。メビウス、この一件が終わるまで他の攻撃は凍結させておいてくれ」

「オフィサーから怒られますよ。相手の対応する前のスピード勝負だと言うのに」

「いいのさ。これは面白いことになりそうだ」


 一通り笑った後にケドウは、ドローンの視点から利府里衛利の画像を凝視する。


「さて。君はどうするんだい?


 ―――


 既に件の兄妹達の居場所を掴んでいた衛利とユリアは。前に衛利と後ろにユリアがラングレーに一緒に跨り道を爆走していた。

 巡回ドローンが撮影、解析し送ってくる情報からは事件現場の死体の写真や、容疑者である少年の姿とプロフィール。現在居場所まで知らせから既に1分足らずに二人の頭には届いていた。

 居場所の次にユリアは犯人の凶器の情報を取り寄せた。


「武器の正体は、小型の自走パルスガン?」


 奇怪な単語にユリアは説明を開示すると、イヌモの兵器群が書かれたサイトにアクセスする。


「突入前の斥候や設置兵器として運用されている、ソフトターゲット専用の自走式兵器。手持ち武器にも使用可能で新型は静音性にも優れる……」


 情報収集ドローンが現場の隣人への聞き込みで、銃声は聞こえていない。と言う証言と一致する事に、さすがに衛利も顔しかめた。


「そんな最新装備が、なぜ?」


 イヌモは見境なく武器を「売る」のは二人とも分かっている。だが、明らかに買えるような相手でもない人間に武器を渡す意図はなんなのか分かりかねていた。


「さぁな。あの少年に聞けばわかるだろう」


 先ほどよりいつものユリアのように頼もしさが戻ってきたことに、衛利は少し胸をなでおろした。


「自警団共は……もうすぐ着くか。仕事が早いな」

「ラングレー」


 潜伏している高架橋が見えてくると、ラングレーは速度を落として停車する。ファイバーアーマーのような目立ったいでたちではあるが、普通の人間とは隔絶した能力を与える装備の前では逃げることは不可能だ。

 それぞれの銃を引き抜いた二人はテントへと近寄る。そこに住んでいるのは。一枚布だったり目立った色の汚い服ばかりを着た、その日暮らしで生活している路上生活者達だった。

 気づいてから表情を崩さない程度ように一文字に口を結ぶが、凄まじい異臭に思わず衛利がチャット機能で問いかけた。


『なぜ家に住まないの? 空いてる場所は多いのに』


 衛利の素朴な疑問にユリアは答えた。


『剣の会に所属してないのさ。奴らが管理する物件は奴らに所属してる者にだけ与えて、そうじゃないのは追い出してる』

『でも、それだけ入りたくない理由があるの?』

『抗争に無理やり動員されている奴らを見れば、自然とこういう道を選ぼうとする奴らも出てくるのさ』


 二人が歩いていけばテントの住人は怪しそうに見つめたり、子供をテントに隠したり歓迎のかの字も見当たらない。

 すると二人の前に長いひげが生えた一人の壮年の男性が立ちふさがった。


「あんた。イヌモの姉ちゃんか」

「はい」


 ユリアも前に出て相手の出方を伺う。悠長だが足止めを食らったところでドローンで、スポットされている限り容疑者に逃げ場はない。


「何の用だ」


 今度は衛利が前に出て答える。


「ここに殺人犯が潜伏してます。あそこに」


 指さした先のテントを男が見やると。更に質問する。


「もし捕まえたら、あの子を剣の会に引き渡すのか?」

「いいえ。まずはイヌモの法廷に引き渡します」

「それを、あいつらは許すのか?」

「容疑者の身柄の確保されている間は誰にも傷つけさせたりしません」


 イヌモの法と言うのは形だけは存在する。実際中央区のアーコロジーでは厳格に適用されている。一方で衛利にもユリアにも、ここにいる全員が分かっていた。

 ここの支配者が私刑を下すのだ。今までそうしてきたし、今回もそうであろう。


「約束出来るか?」

「もちろん」


 男は後ろを向いてドローンが潜伏先と示されたテントの前に行くと「俺だ」と言ってから入っていく。

 二人はその後に続いて中に入っていく。


 その中には横になって呆然としている少女と。その横で赤くなったタオルを、赤い血がうっすらと溶けた水が入ったトレイに戻す少年。

 何か怪我をしているかもしれないと近づく衛利。外様子を見るように頼もうとユリアの方へと向いた時。ユリアの表情は憎悪をむき出しにして歯が見えるほど口元を歪ませる。


「……貸せよ」


 武器を置いてからタオルを渡すよう少年に要求すると、少年はすぐに渡すと手際よく少女を拭きとっていく。


「何があったの?」


 衛利が少年に聞くと、少年の口が開きかけた時。

 荒々しいバイクの音が聞こえてくる。衛利がドローンのカメラに視界を切り替えると、連装ショットガンを持った。フルフェイスヘルメットをかぶった人間がいきり立ちながらテント群へと接近してくる。

 男が立ち上がって二人に言う。


「時間を稼いでくる」


 先ほどの男はテントから出ると衛利とユリアは持っていたマントを被り衛利は少年、ユリアは少女と一緒に覆い隠すとマントは周囲の風景に同化したのを確認して出発する。

 ユリアは声をあげずにファイバーアーマーを介したチャットで衛利に話しかけた。


『どうする?』

『このままアーコロジーへ。契約上危険な状態で教会へは行けませんから』


 言い終わってからしばらくして路地に入ると二人の後ろから銃声が響いて、人々の悲鳴があがった。

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