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ブラックスワン  作者: 鴨ノ橋湖濁
国を持たぬ者達
21/91

円卓と来客

 倉庫での出来事の翌早朝。ネスト教会の前には一台の黒塗りの高級車が停まっていた。ボーダレス商会で一番の防弾性能を誇る車だが、その周囲にはネスト教会の戦闘要員が取り囲むように配置されている。

 倉庫の後。ニッシュとユリアの間で口約束ではあるが、ネストとボーダレスの今後について話し合うこととなった。そして、ニッシュは約束通りネスト教会へと一人だけの護衛を連れてやってきた。

 2階の窓から見下ろすユリア。流石にファイバーアーマーに身を包むわけにはいかずにスーツを着こなしている。それでも普段の生活と同じようにパラディウムの中枢である首部分だけを切り離して使っている。

 一通りニッシュや護衛。それから警護に着く仲間達にも目配せする。何も警戒するべきは外部の襲撃者やニッシュ達ではなく、誰からも知られた犯罪結社に、何かしらの因縁がある味方も抑えなければならないのだから。


「来たぞ。警戒しておけ」


 戦闘員全員に配られているインカムへと通信を飛ばす。


「グランマ。そろそろ」


 振り返るとシスターグランマが修道服を整えて待機している。いつものような優しい雰囲気は失せ、老練な顔立ちになりながら紙を読んでいる。


「ええ。もちろん」


 紙を畳みグランマはユリアの肩に手を置いた。


「大丈夫よ。イヌモの許可があったのだからこの話し合いはうまくいくわ」


 立ち上がったグランマの背中に控えたユリアは一緒に部屋から出ていくと、衛利へ一声かけて通信の接続を確認しておく。ユリア自身は立ち合いはしないが衛利を介して話し合いの様子を中継してもらうためだ。

 廊下には修道女達がグランマが通るたびに礼をして、子供たちはこんにちはと笑顔を向けてグランマは優しく手を振って応えた。

「会議室」にある部屋の両開きの扉が開くと、円卓が置いてある広めの部屋が広がる。オフィスチックではあるが、部屋の奥の如何にも簡易な祭壇にはマリア像が置いてあり横には仏像が、上には神棚が置いてある。ユリアは扉を閉めて外を見張る。

 先ほど到着したニッシュと衛利は着席しており、ニッシュは立ち上がりグランマに握手を求め、グランマもそれに応じる。ネイルや金品がはめられた眩しい手としわしわな質素な手が交わされる。


「会えて光栄よ。シスターグランマ」

「こちらこそ。ニッシュ支部長」


 グランマが手を離し扉から遠い場所に腰掛けてから口を開く。


「このたびの申し出で、ボーダレス商会の皆さんが対テロミッションへの参加。イヌモからは条件を話し合い。合意があれば追認すると受けました」


 グランマが衛利を一瞥すると彼女はうなづく。


「イヌモは話が早くて助かるわ。では商会の条件を提示いたします。2つです」


 ニッシュが手元にあるホログラムを起動すると、浮かび上がる郊外の地図。教会は赤と商会は黄色で塗られ、赤は狭く、黄色は広くその中には港湾が含まれていた。


「まず治安維持や作戦も共同でするとしても、普段からの範囲を決めればそこで起こったことがスムーズに進むと思うのです」

「なるほど。事実上の勢力圏ですね」


 ニッシュは苦笑する。


「ええ。でも、誤解なきよう。現在の教会の戦力はどれだけカバー出来るかしら? 最低限に我々と同じかそれ以上の戦力が必要では? 我々ならこの範囲を24時間管理できますよ」

「……もう一つの条件は」


 元よりそこら付近が縄張りであるのだから監視は出来て当然だと口にでかかったものの、気分を損ねないようもう一つの条件に移る。言い分はどうあれ教会の戦力の部分はなんとも抗い難い部分でもあったからだ。


「港湾の一切をこちらに仕切らせて頂きたい」

「それは……」


 即断できないことだった。郊外で唯一の巨大貨物搬送が可能な施設。そこには多くの富が流れるのはもちろん。配給ドローン基地が存在し、郊外の流通を牛耳り敵対者への供給も思いのまま。


「郊外一帯への支給品への介入が可能であれば。商会の優位は覆しがたい。……剣の会は承諾しないでしょうね」

「抑止力ですよ。剣の会の邦人達は港湾から遠方にいますが、陸運による独自の配給ルートもある。我々難民には郊外の外で生きるのは難しい以上、ここで港湾権利を握らないのは自殺行為」

「イヌモには港湾施設の中立を保つ用意があると」

「どうだか……」


 ニッシュはため息をついてから反論する。


「イヌモは中央区のアーコロジーより外にそんなに関心があるかはわかりません。彼らはどこまで本気で郊外の治安に関心があるのか……」


 淡々とニッシュが続ける。


「それに忘れたわけではないでしょう。イヌモは外見の為だけに難民を受け入れて、この平穏なゴミ捨て場に」

「ミスニッシュ」


 食い気味にニッシュの言葉をグランマは遮った。


「この強固な教会そのものが。イヌモの治安の関心を示していますよ」

「……釈迦に説法だったかしら」


 グランマの横にいる衛利にニッシュは目を移すと、何かをこらえるかのように口を一文字にしているように見えた。


「そうなのかしら?」

「そうです」


 ニッシュも衛利も形式的で心無い問答にグランマは目を閉じた。すると突然扉がノックされる。振り向いたグランマが問いかけると扉の先のユリアが答える。


「どうしましたか?」

「至急お伝えしたいことがあります」


 声は緊迫した模様ではないが、会談の途中で警備を任せている者からの知らせであったのは、3人に現場レベルでは対処できない事が起こったことを暗に知らせていた。


「手短に」

「失礼します」


 扉を開けたユリア。後ろに控える人物が進み出る。

 紳士服を着て真っ白な口ひげを生やした男は、帽子を取って素顔を晒すとその場にいる全員が固まった。


「お初にお目にかかります。私は剣の会の相談役をしております。東城雅言とうじょうがげん申します」

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