第九六羽 時計の電池編
ヤマセミは廊下を出てすぐの所で待っていた。
「遅いぞ」
「すまん」
「ったく、しっかりしてくれ」
「悪いな。服は?」
「これだ」
「ありがとう」
「じゃあ、打ち合わせ通りに」
「ああ」
別れる寸前にタンチョウはヤマセミを呼び止めた。
「ヤマセミ、ライチョウたちがどうだったか知ってるか?」
「いや、聞いてない」
「そうか」
「放っておけ。奴らは奴らだ。今回はそうだろう。集中しろ」
「ああ、そうだな。行くよ」
「終わったら聞けばいい。もういいな?」
「ああ、いい」
「先に行ってるぞ」
道具を受け取るとタンチョウは早速、屋上へと向かった。長い熟考の末にタンチョウはありきたりだが比較的に安全な屋上を隠し場所に選んだ。
一息で登って行くと屋上へと出た。風は強くタンチョウの髪を靡かせる。砂が混じっているように思えるのは気のせいではない。
グラウンドの小さな土を風に乗せて運んでくるのだ。
タンチョウは陰に行くと制服を脱いで袋の中の事務員の服を取り出した。いかにも事務員といった体の服でタンチョウが思い浮かべていた物とほとんど同じだった。
着替えると制服を袋の中に入れた。マスクをして眼鏡をかける。
スマホのカメラを反転させて自撮りすると偽りすぎているかのような不自然さえも感じられたが慣れない事をしているからだと自分を疑いの中で無理矢理に納得させた。
袋を屋上の扉の前にある今では使われていないロッカーの中へと隠そうと考えていた。
このロッカーは鍵が掛けられるがその鍵がどこにあるかは分からない。恐らく教員が保管しているのだろうが開けている所は見た事がなかった。
タンチョウは慣れた手つきでロッカーの鍵を外すと扉を開いた。
「なんだ、これ」
ロッカーの中に入っていたのは赤と黒のチェックのカバーが施された枕だった。それもいくらか使った痕跡が認められる真ん中が凹んだ物で使い古されている物だと分かったが置かれて間もない事も分かった。埃をかぶっていないのだ。
タンチョウはそれを持つ気にもならなかった。
「隣のロッカーにしよう」
枕の入ったロッカーを閉じて鍵を再びかけるためにしゃがむとこの枕がライチョウの依頼の物だと推察した。
彼女が成功したのだとタンチョウは考えた。そして少なからずこのロッカーの鍵を開けて再び閉めたという事も判断できた。
つまり彼女はピッキングが出来たのか、あるいはロッカーの鍵を手に入れたのか、はたまたタンチョウには予想もつかない方法でここに隠したのかもしれない。いずれにせよ彼はそんな色々な方法の中でピッキングこそが現実的で有用だという結論に達した。
なんにせよタンチョウは嫉妬のような感情を抱いて隣のロッカーを素早く開けると自分の制服が入った袋をそこに隠した。
そして俄然やる気を出して階段を下りていったのである。




