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第九三羽 時計の電池編

 3時限目が始まる。


 ライチョウは一仕事終えた達成感に満たされて教室に戻って行った。



≪カッコウ、次の授業中にトイレに立ってくれる?≫


≪えぇ、そんな目立つ事したくない≫


≪お願いよ≫


≪もう、おしっこかうんちって思われるじゃん≫


≪いいじゃない。生理的な物よ、みんな気にしないから。クラス内に好きな人でもいるの?≫


≪もう、馬鹿ライチョウ!≫


≪頼むわね。時間になったら連絡するから≫


≪らじゃー。でも、キセキレイじゃ駄目なの?≫


≪だって、同じクラスじゃない。同時にトイレに立ったら何かあると思われるわ≫


≪なるほどねぇ。あたしたちだって思われるかも≫


≪そんな事はないから安心して≫


≪もう!≫


≪いいなー、秘密の作戦って何か楽しそう≫


≪今度はキセキレイに頼むわね≫


≪うーむ、任されよう≫



 教員が入室した。


 起立して礼が行われるとライチョウは新鮮な気持ちでウキウキとしていた。何もかもが新しいものに見えている。


 入って来た教員もほとんど毎日見る。それなのに何故だか久しぶりに見るような気がしていた。


 授業のどのタイミングで教室を出るか測っている。あまりに早すぎると怪しまれる。だが、遅すぎると前準備が水泡に帰してしまう。


 ライチョウはサイコロを振るかのような気持ちになっていた。


 そしていくらか過ぎた頃にライチョウはカッコウにメッセージを送った。



≪行きましょう≫


≪らじゃー≫


≪頑張ってねー≫


≪キセキレイ、何か不審に思うような動きがあったら教えてね≫


≪えー、今はイベント中で授業内容はほとんど聞いてないんだけど!≫


≪今だけよ≫


≪しょうがないなー≫


≪いいなあ、わたしもイベントマラソンしたい≫


≪はあ、少しの間だけだから≫



 ライチョウは教員に断って教室を出た。


 静かだった。壁越しから聞こえてくる他の教室の声がくぐもって聞こえる。自分だけ特別な感覚に誘惑されて他の教室を覗き見たい衝動を抱いた。


 するとガラリという音がして視線の先の扉が開いた。カッコウが教室から出て来たのだ。


 2人は合流してロッカールームへ向かい出す。



「大丈夫なの?」


「たぶんね。種は撒いておいたから」


「へえ。咲いてるといいね」


「枯れてたらどうにかしましょう」


「うん。それであたしにしてほしい事ってなに? あんまり特別な事は出来ないよ。知ってると思うけど」


「そんなに難しい事は頼まないわ。見張ってて欲しいだけよ」


「なるほどねえ。りょうかい、見張りましょう。この目でね」


「頼むわね」


「どんな種を撒いたの?」


「すぐに分かるから」



 話している間に2人はロッカールームがある廊下の角まで来ていた。ライチョウは隠れて廊下を窺うと教員も生徒も歩いていない。


 振り返ってカッコウに頷くと作戦の開始を合図した。


 音もなく静かに廊下を走っていく。ロッカールームの前に来ると優しくドアノブを掴んだ。


 中に人がいる気配はない。撒かれた種は花をつけているだろうか。


 ゆっくりと捻るとドアノブは滑らかに回転してドアが動くのを指先から感じられた。


 ライチョウは達成感や満足感やその他いろいろなものを綯い交ぜにした不思議な感情が湧き上がってくるのを感じて微笑んだ。


 少しだけ出来た隙間に身体を滑らせるように部屋の中へ入るとロッカーの数を確認した。


 両端の壁際に並べられている。カーテンは閉め切られていて差し込む陽の光が微かな灯りになっていた。


 ライチョウはロッカーの名札を確認すると三島の名前を見つけた。


 ポケットからピッキング道具を取り出すとロッカーの鍵穴に差し込んだ。機械仕掛けの道具は鍵の形に合わせて進んで行く。


 奥まで入った事を確認して捻るとカチッと音がして鍵が開いた事を教えてくれた。



「これ、タンチョウに渡せばいいんじゃないかしら?」



 なんて独り言ちるとそもそも普通に出来るから必要なく、得意じゃない者の道具である事を再確認すると依頼の達成をにわかに感じ始めて微笑むのだった。


 ロッカーを開いた。ムッと鼻につく男の臭いが漂った。


 ライチョウはロッカーの上の棚に置かれている年季の入った枕を手に取った。赤と黒のチェックのカバー、真ん中が凹んでいて薄くなっている。


 すぐにロッカーを閉じて再びピッキング道具を差し込むと鍵をかけた。



≪枕の確保に成功≫


≪おっけー≫


≪ライチョウ、2人の教員が職員室から出てきた。ロッカールームの方に歩いて来る!≫



 ライチョウは廊下で見張りをしているカッコウからのメッセージを受け取るとドアの際に張り付いて廊下の様子をドア越しから窺った。


 確かに2人分の足音が近づいていた。


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