第九一羽 時計の電池編
タンチョウは悩んでいる。
どう考えてもいい案が浮かばなかったのだ。
2年D組の授業内容は今日に限って移動教室がない。無人になる時間があれば仕事は容易になる。それなのに状況からそんな様子は微塵にもなさそうだった。
生徒たちは化学の小テストの勉強に必死になっていてタンチョウも必死になって考えている。必死の混濁が起こっている。
この必死が合わされば草野の小テストも乗り越えられるかもしれない。
自分たちの時にはそんな手助けは得られなかったタンチョウだが依頼があった以上はやらなくてはならない。タンチョウはあくまでも仕事に従事するつもりなのだ。
授業が始まっているのに内容は頭に入って来ない。
たまにペンはノートの上を走っているので教員には怪しまれない。タンチョウは案を次々と列挙してメモしているのだ。だが、そのどれもが上手く行きそうにないと思っている。
授業の半ばを過ぎた頃、いよいよ時間が迫って来ていると思うとほとんど焦りで頭がいっぱいな状態で縋るように変装に行きついた。もうこれしかないと思っている。
ノートには最初から頭に変装と出ているのでそれが嫌に目にちらついていたのだ。飛びつきやすいと思えばそうだが少しだけ乗り気でもあった。
なにしろタンチョウにとって変装とは新しい事への挑戦だったのだ。
でも、失敗は許されない。メリットを考えてデメリットを計算した。
そして様々な事を考慮してタンチョウは変装する事に決めた。
ヤマセミに報告するつもりでスマホを開いた。
≪やっぱり変装するしかなさそうだ≫
≪そうだろうな。そっちの方が好きそうだ≫
≪変装は好きじゃないぞ≫
≪違う。そういう思い切った大胆な方法の方が好きそうだと言ってるんだ≫
≪確かにそうだ。言われると俄然やる気になって来る≫
≪変装は何をするんだ?≫
≪事務員しかないだろうな≫
≪そうだな。俺が服を調達しよう。演劇部から拝借する≫
≪分かった。よろしく頼む≫
≪マスクも用意しておけ≫
≪ああ≫
≪実行はいつだ?≫
≪依頼では4時限目前にとある。そこでやるだろうな≫
≪だが、罠という可能性もあるだろう。4時限目前にという指定にのこのこと従って馬鹿を見る事になるかもしれないぞ≫
≪もちろんその可能性がある。が、だからこその変装だ≫
≪ふん。やりたくて仕方がないって感じだな。変装にそれほど乗り気とは思わなかったぞ≫
≪ああ、自分でも驚いている。最大限に楽しむさ≫
ヤマセミとのやり取りを終えたタンチョウは言葉にして改めて自分がこれだけ乗り気になっている事に驚いていた。新鮮な気持ちを抱いて授業に取り組み始めた。
そして2時限目が終わった。




