第八九羽 時計の電池編
依頼を受けたライチョウは初めて2つの依頼を同時にする状況を少なからず楽しむつもりでいた。
体育祭を終えてから何かがぽっかりと抜けてしまったような気がしてならなかった。
その空いた個所を埋める物を探そうとするといつもタンチョウの事が頭をちらついた。
そんな時は頭を振って雑念を払うがしつこいほど浮き上がって来るのでいつしか観念して退屈に頬杖などついて日々を送るのだった。
「やっほ」
「キセキレイ。どうしたの?」
「依頼どうするの?」
「調査しましょう。タンチョウたちもそうしてるでしょうから」
「うん」
「調査してるだろうけれどメッセージはない。新しいグループを作ってやり取りしてるのね」
「だねー」
「私たちも新しいグループを作りましょう。そこでやり取りしましょうか」
「分かった」
「誰が集まるかしら?」
「まあ、わたしはいるよねー。あとカッコウかな」
「呼びかけましょう」
「うん」
「私は先に調査しておくからグループを作っておいてくれる?」
「らじゃー」
ライチョウはキセキレイに一通り任せるつもりで教室の外に出た。
彼女は教員の三島について調べようとしている。
早速、適当な理由を作って職員室へと入った。三島はいなかった。
考えてみるとライチョウにとって初めて一人で実行する依頼である。不思議と不安はない。出来る自信に漲っていた。
ピッキングの必要があるかもしれない。でも、タンチョウに協力を求めるつもりも毛頭なかった。
自分は全く悪くない、非はないと思っている。だから謝る必要はない。でも、謝られたくないとも思っている。
なにかよく分からない原因不明の喧嘩だけが宙に浮いていた。
「真城、この前の体育祭は良かったぞ」
ライチョウの担任である神谷が彼女を褒めている。
彼女は進路について話があると神谷に話して職員室へと入った。
三島の机の位置を把握するとざっとその周りを観察した。机の上は乱雑で立て置かれている数冊の教科書の間からはプリントや広告がはみ出していた。
ペン立てがあるのに机の上に疎らに置かれていて中にはキャップが外されているままのペンもいくつかあった。
極めつけは黄色の蛍光ペンなのにキャップはオレンジの蛍光ペンのものまであった。
ライチョウは三島に習った事はない。話しているところを見た事もなかったががそれだけを見て雑な男だと判断した。
職員室内の机の周りには枕は見つからなかった。
枕がどこに保管されているのかが分かればそれに越した事はない。
頭の中で次々と候補を出した。職員用のロッカー、昼寝をする場所、などなどと出してゆく。
事務員用の宿直室があるようだが校舎から離れているので除外した。
居眠りをする生徒のように器用にイスに座ったまま眠るのなら枕は使わないだろう。
そこでライチョウは職員室内の隅に設けられている一角に目を付けた。会議室に繋がっている扉の傍の衝立の向こう側が怪しい。
「真城の成績は優秀だ。幅広い進学先があるだろう。あとはやりたい事が何なのかをはっきりさせる事だが」
「はい」
「以前の面談では探していると言っていたが見つかったのか?」
「ええ、大雑把に」
「そうか」
ライチョウは観察を続けながらも器用に話を続けていた。神谷もちらちらとよそ見をするライチョウを怪しんでいない。
そこでライチョウは思い切って尋ねてみる事にした。
「先生、あの衝立の向こうは何があるんですか?」
「うん? ああ、あれか。あの向こうには休憩所があるんだよ。ソファがあってゆっくりできるようになっているんだ」
「へえ、先生もそこで休むんですか?」
「まあ、たまにな。あそこで昼寝をする先生もいるんだよ。でも、俺が横になるにはちょっと小さいんだ」
「だから昼寝は出来ない」と神谷は笑ってライチョウに言った。
知りたい事を知る事が出来た。
昼寝をしている先生というのは三島の事だろう。三島は神谷よりもいくらか背が低かった。
ライチョウはある分野の活動が盛んな大学を調べて欲しいと神谷に頼んで職員室を出るとスマホを取り出した。
キセキレイたちに報告するのだった。調査は上々だった。




