第八七羽 時計の電池編
タンチョウはホームルームを終えた後に1時限目前の短い休み時間を使って出来る限り依頼について調査する事にした。
オオルリとヤマセミ、タンチョウしかこの依頼をやろうとしていない。人数が少ないだけ迅速に行動する必要がある。
こうして支障が出ている以上、タンチョウは早くライチョウと仲直りをしたかった。だが、迷いが彼を引き留める。
謝ればいいのか、何をすればいいのか、彼はほとんど全く分かっていなかった。博打を打つような気持ちで謝罪を口にするのも憚られる。
かつてないほど彼は迷っている。標はなにもない。一条の光さえも見出せていなかった。
教室を出てすぐにタンチョウは2年D組へ向かった。
野球部の後輩はD組にはいない。情報の収集も難しくなるだろう。
教室の前に着くとD組の前の廊下には人っ子ひとりいなかった。
「移動教室なのか?」
タンチョウは学校内であまり見かけない光景に独り言ちるとほとんど警戒する事なくさらに教室へと近づいて行った。
扉は後ろも前も閉め切られている。そっと開けてみようかと思うが中からは人の気配がする。それも大勢いるようだ。
タンチョウは壁際を歩いた。足音を消している。
中からは確かに生徒がいる気配がする。よくよく見ると明かりもついていた。それなのにひっそりと静まり返っているのだ。
異様な雰囲気が漂っていると感じたタンチョウはオオルリとヤマセミと相談するつもりで早々に引き返していった。
タンチョウが教室に戻ったのは1時限目が始まる直前だった。
授業の準備をしようと机の中に手を入れるとかさりと乾いた紙に手が触れた。朝にも感じた感触だった。
おや、と思ったタンチョウはそれを指で挟んで引き出した。
彼は茶色い封の切られていない新しい封筒を指で挟んでいた。
また依頼が投稿されたのである。
1日に2つの依頼がやって来るのは初めてだった。
タンチョウは封を切って中の紙片を取り出すと簡単に目を通した。
[三島先生の昼寝用の枕をどこかへ隠してください。今日だけでいいんです。三島先生が昼寝をするのは4時限目です。その前までによろしくお願いします]
この依頼はテキスト形式に印刷されていた。手書きを避けて名前を書いていないのはとことんまでに素性を隠している意図が見える。
タンチョウはこの依頼の写真を撮影してグループ内にアップロードした。
≪同時に2つの依頼か≫
≪初めてだな≫
≪ああ≫
2つの調査をしつつ、実行も行うのは危険だった。
タンチョウは出来たらライチョウに一つを任せたい気持ちでいるがなかなか切り出せない。そうしたいし、そうした方が安全だと思っているのに言葉に出来なかった。
≪私が2つ目の依頼を引き受けるわ≫
ライチョウが言った。
≪調査はキセキレイたちが引き受けてくれるわね?≫
≪しょうがないなー≫
≪まったくもう。仕方がないねえ≫
≪よろしく頼むわね≫
タンチョウは少しだけ嬉しかった。
≪頼んだぞ。同じ日の依頼だ。期限も近い。情報交換はしっかりして行こう≫
タンチョウが発言したが誰もうんともすんとも言わなかった。




