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第八一羽 首輪をつけた三毛猫編

 武田の思い詰めたような問いにタンチョウは力強い口調で答えた。



「言うと思っていた。準備は出来ている」


「よし、じゃあ、行ってくれ」



 肩を叩かれるとタンチョウは弾かれたように権田めがけて突進した。


 2度目の衝突はタンチョウに分があった。美鶴の出した指示を権田は実行できなかった。彼女は今度の衝突は避けるつもりだったが権田は避けきれなかった。


 タンチョウは左肩に再び力を一杯に込めていた。1度目の衝突で左肩の感覚が打撃によって敏感になっていた。


 権田は少しだけ体勢を崩していた。たった一歩だけ右足を後ろに引いた。


 武田にはそれだけで十分だった。体勢が崩れないように力を入れた権田は全身を硬直させている。


 タンチョウの右肩に足をかけて踏み出すと仰け反った権田の右肩に手を置いて体を伸ばした。


 その一瞬間で武田は美鶴の額から蒼い鉢巻を奪った。


 美鶴は「あっ!」と驚くと鉢巻が巻かれていた額を押さえている。


 タンチョウは前のめりに倒れそうになっている武田を落とさないように助けた。



「よーっし!!!」



 蒼い鉢巻を掲げた。一本の腕の先、蒼い鉢巻を握る拳を高く突き上げられている。


 みんながそれを見た。すると紅団の気勢は一気に大きくなった。


 団長を討たれた蒼団は戦う意志の何もかもを奪われたように崩れていった。


 美鶴はその様子を悔しそうに眺めていた。権田の背から下りたのでグラウンドの上で立っている。


 騎馬戦の成績は紅団が勝った。


 そして全選手が団席に戻ると全団の戦績が見直されていく。放送委員会の面々がそれぞれの活躍を大いに称えていた。


 戦いは最終面の選手リレーへと突入しようとしていた。


 タンチョウは準備を進めていたが気にかかる事が新たに生じていた。


 あの依頼主である直感を抱いた生徒が蒼団にいたのだ。


 美鶴はそれを知らない。教えるべきか彼は悩んだが結局、体育祭が終わるまで教えない事に決めたのだった。


 放送委員会の各団を称える言葉をスピーカーから出す間にタンチョウは少し離れた場所から蒼団の彼を見張っていた。


 すると一人団席から離れて歩いていくのを見た。タンチョウは考える間もなく反射的に後をつけた。


 彼は校舎をぐるりと回るように歩いている。きょろきょろと頭を動かしているのは三毛猫を探しているからだろう。


 そして第1校舎の西出入り口の前で彼は2人の男子生徒と会って何か話し込んでいるのを見た。


 声を潜めて辺りを窺う素振りを見せるのでタンチョウは首謀者が彼らだと認めた。


 話している内容はタンチョウがいるところまでは聞こえて来ない。近づくような危険も冒さなかった。


 抑えきれない怒りに燃えながらタンチョウは彼らの様子を冷静に監視していた。


 美鶴や武田のように体育祭を純粋に楽しもうとする者もいればこうした詰まらない欲望で水を差そうとする者もいるのが許せなかった。


 後から会っていた2人には見覚えがある。2人とも運動部で知られた生徒だったからだ。そして次の選手リレーにも出る。


 タンチョウは目の前を走っているようだったらぶち抜いてやる事を固く決意するとその場から離れて行った。そうでもしなければ企みをまだ諦めていないような顔つきで話す男たちに掴みかかってしまいそうだった。


 戻った頃には放送委員会の話も終わっていて最終競技である選手リレーの準備を促す放送に変わっていた。


 タンチョウは力強い決意を秘めたかのようにしゃがんで靴紐を結びなおした。


 選手リレーの最後は各団の団長が走る事になっている。タンチョウは武田の前になっていた。そして首謀者の一人が美鶴の前に配置されている。


 その配置がまたタンチョウの闘志を燃やしていく。



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