第八〇羽 首輪をつけた三毛猫編
広く展開した蒼団の騎馬たちは紅団を上手く囲っていた。
囲いの外になんとか出る事の出来た2,3騎が戦況を窺っている。
武田は騎馬に的確な指示を出して蒼団の団長の元へとじりじりと寄っていく。
美鶴はすでに2枚の赤い鉢巻を手にしていた。
武田も同じ数の蒼い鉢巻を手にしている。
包囲の中から一気に飛び出した武田は美鶴の方へと駆け出した。
「策に溺れたか、バカめ!」
武田がタンチョウの上で呟いた。
「策に?」
「待っているのがその証拠だ」
「どういうことだ?」
「まったく、少しは察したらどうだ?」
「分からんのだよ」
「しょうがない奴め。包囲は完ぺきだった。その後に採るべき行動は包囲の中の騎馬を一網打尽に打ち取るか、包囲の外に逃れた騎馬を打ち取るかだ」
タンチョウは戦況を見ながら考えた。タンチョウもその通りだと思ったが美鶴はそのどちらの行動に移らなかった。
「だが、奴は待っている。勝利を確信したのか? だとするなら早計だ。将棋をした事はあるか?」
「ある」
タンチョウは美鶴が強くない事を教えられていた。ここで口には出さなかったが。
「騎馬戦に飛車や角行はない。作らねばならん。幸いな事に王将の必要はないからな。奴は自らを飛車にして角行を作るのを怠った。包囲する騎馬を見れば分かる」
「それで俺たちはどうなんだ?」
タンチョウが尋ねる間に囲いの外へ逃れていた2騎がタンチョウの傍を走っていた。
美鶴の隣には1騎しかいない。数では優勢だ。
だが、黄団との闘いで見せた彼女の騎馬の一騎当千ぶりはその差を埋めるだろう。
タンチョウは武田の指示を待つ事無く美鶴の方へと向かった。
武田はタンチョウの背の上で笑っている。
そしてタンチョウは権田と衝突した。
騎馬の先頭を走る者は両手が塞がっている。タンチョウは左肩からぶつかって行った。野球部である彼は右投げなので右肩を守らなければならなかった。
倒れそうになるのをやっとの事でタンチョウはこらえた。背負っている武田が調整したのも体勢を保つのを助けたが後ろ足になっている2人も加える力の加減を変えて騎馬が倒れないように頑張っていた。
それなのに権田は揺らいだ様子すらない。
一点突破を図った渾身の体当たりだった。タンチョウは予想していたが考えていたよりもお互いのダメージは少なかった。
美鶴は今の衝突で倒れなかった武田の騎馬を見て称賛するように笑った。まるで戦う資格があるのを認めたような瞳の輝きを宿している。
それが武田の戦意に火をつけた。
「やるな!」
「そっちこそ。今ので終わったかと思ったけれどやっぱり一味違うわね!」
美鶴は追撃をかけようとしていない。単騎として圧倒的な強さを見せつけた美鶴は余裕をもって盤面を見ている棋士のように戦況の把握に努めていた。
蒼団が少し優勢だった。最初に陣形を展開させていたのが功を奏したと言える。それでも紅団の騎馬もなんとか闘っていた。
武田は強かに美鶴を観察していた。戦況を見ている眼、権田の肩に触れている手、そして感情の表れている口元を。
指示を待っている美鶴の騎馬は完全に動きを止めている。
タンチョウの左肩に手を添えて武田が尋ねた。
「もう一度、ぶつかれるか?」




