第七八羽 首輪をつけた三毛猫編
美鶴は武田の隣にいた。
「真城、これまで好敵手に出会った事はあるか?」
武田は前を見据える美鶴に尋ねた。美鶴は武田と目を合わせると質問の意図を図ろうとした。
「どういうこと?」
「どんな勝負でも好敵手として現れる人は重要だ。私も現れて欲しいと願う事はある。なのに、そう易々とは現れてはくれまい」
美鶴は武田の話に耳を傾けている。彼女の言葉を一言一句逃そうとしていない。
質問に答える前に口元に指を当てて考えた美鶴はふと顔を上げた時にタンチョウを見た。
そしてにこりと笑うと武田の目を真っすぐに見てきっぱりとした口調で言った。
「出会った事はあるわ。とても身近にいる。私に出来ない事を、躊躇う事を、手を出そうと思わない事でさえ、あっさりとやってしまう人が。それなのにその人の隣に立っているのが苦にならない。私も、一歩踏み出してみようという気にさせてくれる」
「はははっ、いいな。私もそんな人が欲しい」
入場が始まった。放送部員の女子生徒によるアナウンスがスピーカーから流れている。
武田の後ろをタンチョウが歩いていた。美鶴の後ろには体の大きな権田がいる。相も変わらずに口をキッと横に結んで小難しい顔をしていた。
右耳に付けているインカムからは声がしなかった。誰も喋っていないのだろう。だが、キセキレイたちはタンチョウにまだ仕事をしてもらうと言っていた。そればかりが気になってタンチョウは集中力を欠いていた。
紅団は最初に黄団と闘う事になっている。グラウンドの側面に横一列に並んだ選手たちは決まってもいないのにみんな腕組の姿勢で向き合っていた。
前島は待ちきれないと言わんばかりの表情だった。負ける気など更々ないと言った様子で自信に溢れた笑みを口元に浮かべていた。
対する武田は不敵の笑みを湛えている。
両団の選手がグラウンドの中央へと進んで行く。
選手たちが位置に着いた。
タンチョウは選ばれた他の2名の選手と共に武田を上に背負った。下の土台となる三角形を形作る男たちは運動部の体格の良い者が選ばれやすい。
三角形の頂点の位置にするタンチョウは最も接触が多くなる。上に乗っている武田はタンチョウの頭を鷲掴みにして指示を出すつもりのようだ。
騎馬の上に乗る人が巻く鉢巻を多く奪った方が勝ちとなる。
背が高い武田は前島よりも少しだけ有利と言える。土台も運動部の選りすぐりなので機動力も申し分ない。
だが、前島もそれを分かっている。必ず何か対策を講じているはずだ。だからこその笑みだとタンチョウは考えていた。油断はない。
砲声が轟いて闘いの始まりが告げられた。
「行くぞ!!!」
武田がタンチョウの頭を前に倒して前進を指示した。
地鳴りのように響く進軍が選手たちを敵味方なしに鼓舞していく。
先頭を走る武田と前島が初めに衝突した。
前島はやはり対策を講じていた。衝突したと同時に武田の騎馬を3組の騎馬で囲って集中攻撃を仕掛けて来たのだ。
予期していたタンチョウは完全に囲まれる前に左側面から脱出した。衝突の際に気を付けて体勢を維持していたのが大きかった。
タンチョウが左側面からの脱出を選んだのにも理由がある。そちらの方が味方の数が多かったのだ。
前島は包囲を突破され、尚且つ体勢を維持したまま勢いを大きくして仕掛けてくる武田たちを迎え撃った。
講じた作戦が上手く行かずに混乱した戦士たちの統制が取れない前島はそのまま紅団の破竹の勢いに押し負けて軒並み鉢巻を奪われる形で負けてしまった。
「はーはっはっはっ!」
武田の勝利の笑いが戦場に木霊した。
次の試合のためにグラウンドの脇へと退いた戦士たちを武田が褒めていく。そして最後には「次があるのを忘れるな」と笑って締めくくった。
次は蒼団と黄団が闘う。3つの団であれば連戦にならないのはたった一つの団しかない。それが紅団だったのは幸運だった。
タンチョウは美鶴の闘いを見ている。美鶴は身体の大きな権田の上に立っていた。後ろ脚となる2人の騎馬も権田ほどではないが背の高い者が選ばれている。
だが、動きを見ていたタンチョウはその後ろ脚の2人を見て美鶴の騎馬には機動性がないと判断した。
そもそも権田が敏捷な男ではない。後ろ脚の2人も権田に背を合わせるために選ばれたような男たちだった。
そんな美鶴に挑む前島は悪戦苦闘していた。権田が大きな壁となっているのである。どうにも手が届いていない。
前島の騎馬が指示に従って美鶴へ近づいて行くが権田を前にするとすくみ上って一歩引いてしまう。そうなるともう美鶴と権田の独壇場だった。
一枚、二枚と美鶴が手に持つ鉢巻の数を増やしていく。
そして黄団と蒼団の闘いが終わった。
蒼団の勝利だった。美鶴は数枚の鉢巻を持っている手を掲げた。




