第七四羽 首輪をつけた三毛猫編
各団の演武に感心したタンチョウが両手でしっかりと拍手を送っていると右肩を突っつかれた。
そちらの方へ顔を向けるとコジュケイがいた。
なにやらクスクスと笑っている。
「どうした?」
「ばか」
「なんだよ、突然。楽しそうに笑ってるじゃないか」
「インカムはどうしたの? 電源を切ってるの?」
「インカムだって?」
言われて改めてタンチョウは右耳に指を当てた。インカムが無くなっている。
「あれ、無いな」
「そうだと思った。バカだね。落としちゃったんだ」
「そうみたいだ。たぶん教室だろう。さっき昼寝をした時に落としたに違いない」
「キセキレイ怒ってるよ。カッコウも連れ出してる」
「そうか。それはマズいな」
タンチョウは頭を掻いた。
「楽しそうだな?」
「だって、面白いんだもの」
「しょうがない奴だ」
「ふふ、貸してあげる」
コジュケイがタンチョウに差し出したのは自分が付けていたインカムだった。
「ありがとう。あとで返すよ」
「うん、しっかりと怒られてね」
「気が滅入るな」
タンチョウはコジュケイから受け取ったインカムを再び右耳に付けた。
≪俺だ。タンチョウだ≫
≪この馬鹿、のうたりん!≫
≪酷い言い草だ≫
≪インカムどうしたの?≫
≪どうやら落としたみたいだ。たぶん寝てた時に落としたんだろう≫
≪今はどうしてるの?≫
≪コジュケイから借りている≫
≪ふーん、あっそ!≫
≪何の用だ?≫
≪何の用だって?≫
≪ほらね、こうなんだよ。本当に困るよね、カッコウ!≫
≪これは困るねえ。タンチョウ、だめだぞお?≫
≪何の話だか分からん。教えてくれ≫
≪手伝う?≫
≪必要であれば≫
≪よろしい、終わった後にも着替えがあります。これだけ言えば分かるでしょう。分からないと言うのであればもういけません≫
≪なるほど。行くか≫
≪早くー!≫
≪遅―い!≫
≪早急に終わらせよう。お前たちが楽しそうで何よりだ≫
タンチョウはグラウンド内から出て行こうとする生徒たちを見た。
演武は各団とも大成功だった。男たちは勇壮に女たちは美麗に舞っていた。踊り子が魅せる舞には創造力と身体性を発揮させる力があった。
盛り上がっている団席の中から出ると歓声を上げて賑わうその場を突っ切って第1校舎の方へと向かった。
美鶴も武田も前島も、そして3人が率いていた者たちも白線で輪を描かれている土の踊り場の中で互いに健闘を称えて笑い合うのを見て覗きなどという無粋で卑劣な真似の被害に遭わせるわけにはいかないと決意を新たに固めるのであった。
第1校舎の西出入り口付近へ近づいた時にタンチョウは見覚えのある姿に気が付いた。
三毛猫を追っている時に聞き込みをした男子生徒があの時とまた同じように校舎の壁を背もたれにして座っている。地面に木の枝で何かを書いているようだ。
直感的に怪しいと感じた。それでも覗きの犯人ではないと感じている。
猫アレルギーと告白した事もあったがそれとはまた別の何かがタンチョウにそのような印象を与えた。
依頼者は彼かもしれないとタンチョウは考えた。
それでも接触する訳にはいかない。鳥の巣の秘密は守らなければならなかった。
これから合流するキセキレイとカッコウに相談してもいいだろうとも考えて彼の顔を覚えるのにとどめた。
タンチョウは辺りを少しずつ警戒しながら更衣室の方へと向かった。すでにキセキレイとカッコウが待っていた。




