第七一羽 首輪をつけた三毛猫編
昼休みまではあと2つの競技が残っている。時間は30分ほどだろう。
競技を終えたタンチョウは次の出番が昼休み後である事を確認すると早速、団席を飛び出して校舎の方へと向かった。
≪終わった。状況を教えてくれ≫
≪三毛猫がもう1匹いたんだ。歩いているのを見た≫
≪プレハブ小屋を確認して来たぞ。捕まえた三毛猫は中にいる。誰かが出した痕跡はない。もともと2匹いたと見ていいだろうな≫
≪目撃情報は?≫
≪今のところはない。でも、やっぱり第1校舎周りに集中しているように思える≫
≪どんだけ女子生徒の更衣を映したいんだろうねー。変態だな≫
≪許せないわ≫
≪聞き込みで男が三毛猫に接触していたという情報もあった。それについては新しい事はあるか?≫
≪ない≫
≪男たちは猫を追うぞ。女たちは接触した男について調べてみてくれ≫
≪了解≫
≪りょうかーい≫
≪ラジャー≫
タンチョウは第1校舎の西出入り口の付近までやって来た。
生徒はまた疎らにいる。だが、どれも見た事があるような生徒ばかりだった。
聞き込みに時間を割くわけにはいかない。だからこそ役割を分けたのだから。
タンチョウはほとんど勘を頼りに動き始めた。
時間は過ぎていく。楽しい時間も苦しい時間も平等に。
刻々と期限は迫っていた。
第1校舎の西出入り口前にやって来るとオオルリがまた走っているのが目に入った。
≪オオルリ、三毛猫が居たのか?≫
≪そうだ!≫
≪よし、後を追う。なんとか食らいつけ≫
≪無茶言うな、もう限界に近いぞ。早く来てくれ!≫
タンチョウは喋る時間も惜しいと言わんばかりに口を閉じると離れた場所にいるオオルリを追って駆け出した。
同じようにオオルリに追いついたがタンチョウが着くころには猫は見えなくなっていた。
「いないな」
「うん、第2校舎の方へ、行ったぞ」
「分かった。このあたりで張っていてくれ」
「了解」
タンチョウがオオルリを労わるために肩に手を置くと満足したオオルリは崩れ落ちるように座り込んでしまった。
ぜえぜえと息を切らしている。彼はそれほど足の速い方ではなかった。
任されたタンチョウは第2校舎の方へと向かった。
そのあたりになるともう生徒がいる事はない。
その分だけ何かの些細な動きにも敏感に反応する事が出来る。
タンチョウは野球の野手が打者の動作をつぶさに観察する要領で視界を広げると集中して猫を探し始めた。
いくらかそうして歩いたころに低木が植えられている場所にがさごそと動く葉の揺れがあった。
その瞬間に既に身を低くして足音を殺したタンチョウはゆっくりと近づいて行く。
茂みの中から顔を出したのは黒猫だった。
第3校舎の裏で昼寝をしていた猫だった。
タンチョウはがっくりと肩を落としたが落ち込んでも居られない。すぐに気を取り直すと再び三毛猫を探す事に没頭した。
そしてそのすぐ後にがさりと後方から音がした。
小さな音だった。人の足が当たったような音ではない。確かに茂みから抜けたような音だった。
タンチョウはゆっくりと振り返った。首だけを動かして先に後方を見るとそこに三毛猫が居た。
さっき捕まえた三毛猫よりも少しだけ小さいように見える。でも、模様はそっくりで見間違えそうになるほどだった。
そして赤い首輪をつけている。
三毛猫は不穏な気配に気が付いたのかぴたりと足を止めてしまった。後ろ脚を少しだけ浮かせて尻尾で天を突くように立たせていた。
タンチョウは三毛猫とばっちり目が合った。
ほんの一瞬だった。それでもその一瞬にタンチョウは多くの事を考えた。
警戒している猫、追われて人への警戒心を強めているに違いない。
逃げ場はどこにでもある。茂みへ隠れるか、走り去るか。走られたら終わりだぞ、という考えが怒涛の勢いで頭の中を巡った。
猫の方が先手を打った。茂みをひょいひょいと超えると校舎の壁沿いを軽やかに走っていく。
タンチョウは後手に回った事を後悔する間もなく走り出した。反射的に動いて猫の後を追っていった。
やはり猫の方が素早い。




