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第六八羽 首輪をつけた三毛猫編

 タンチョウが戻るとリレーが終わっていた。


 どうやら紅団は2位らしい。1位は蒼団だった。美鶴は好スタートを切ったと言えるだろう。


 次々と競技が進んで行く。熱狂し、白熱した戦いが繰り広げられていた。

 タンチョウは暇が出来ると猫を探しに歩いたが見つからない。情報を待っていた。


 そして3年生のリレーの順番となった。団席で控えていたタンチョウは肩を叩かれた。


 後ろを振り向くと武田が立っている。



「行くぞ」


「分かった」



 走者の順番に並ぶ事になっているが先頭に武田がいた。一番に武田が走るらしい。隣には前島が立っている。そして美鶴もそこにいた。


 3団とも団長が先頭を走ろうとしているのだ。


 タンチョウは並びを整えている間に武田に尋ねた。



「なあ、どうして先頭を選んだんだ?」


「うん? そうだな、団長がまず全力で走っているさまを見せないと後が付いてこないだろう」


「なるほどな」


「前島が私に張り合って先頭にしたんだ。私の性格をよく分かっている。ここで紅団の気勢を挫くつもりだろうがそうはいかない。問題は真城美鶴だ」



 武田が美鶴の方を向くのでタンチョウもそれに応じて美鶴を見た。


 彼女は額に巻く鉢巻を巻き直している。



「私と前島が先頭で走るのを読んでいたのか、それとも私と同じような考えなのか。分からないが面白くなりそうだ。彼女は足が速いと聞いた。楽しみじゃないか? ええ?」


「そうだな。運動神経は良いと聞いている」


「まあ、後半は男子で勝負する。頼んだぞ」


「分かった」



 タンチョウは力強く頷いた。


 耳に当てているインカムを押さえると小声で美鶴に尋ねた。



≪どうして先頭に?≫


≪走る前に話しかけないで。敵よ。集中が途切れる≫



 タンチョウは美鶴が脇目も振らずに前だけを見て集中しようと努めているのを見た。


 少しだけ反省するとタンチョウも同じように集中した。自分もそんな時には話しかけて欲しくない。ネクストバッターサークルに入った時点で人から話しかけられるのは御免なのだ。


 各団2名ずつが走る。計6名がバトンを持って並んだ。脇には合図しようとする体育委員会の1年生が立っている。


 1年生はいくらか緊張した面持ちでいるのが可哀そうだった。



「負けても恨みっこなしで」


「馬鹿め、そんな女々しい奴が先頭を走るわけがない。なあ、真城?」


「そうね、スポーツマンシップに反するわ。でも、負けた言い訳をこしらえるのは自由よ」



 武田は嬉しそうに笑った。前島は目を鋭くさせている。美鶴はリラックスした表情でストレッチなどしていた。


 そして準備が整うとスタートの砲声が轟いた。


 一斉にスタートを切る6名だったが先頭は分かれた。


 ほとんど3名の団長が先頭を走っていた。絶好のスタートを切った。


 ほぼ同時にバトンを渡すと3名はトラックを半周した後に息を荒げた様子もなくリレーの行く末を見守っていた。


 3年生のリレーともなると応援の声はひと際大きくなる。以前にも紹介したように才色兼備の女生徒として校内の支持を得ていた美鶴は多くの声援を受けていた。


 3名の団長の足の速さはほとんど同じだった。しいて順位を付けるなら武田・美鶴・前島の順だがごく僅かな差である。


 武田は隣を走る美鶴に驚きを隠さなかった。走り終えても息を切らしていない彼女を見て当面の敵を美鶴に定めた。


 リレーが男子に移った。紅団が少しだけ優位だった。


 タンチョウの番が回って来た。少し前から立ち上がって準備していると武田が駆け寄ってきてバシンと尻を叩いた。



「頼んだぞ!」


「任せておけ」



 足の速さには自信がある。校内でも随一の速さを誇り、アンカーを任される覚悟でいたがそうはならなかった。


 そしてタンチョウにバトンが渡される頃には順位が変わっていた。タンチョウのほんの少し前を、1馬身ほどの所を蒼団の団員が走っている。


 野球で鍛えた足を彼は存分に見せつけた。


 瞬く間に蒼団の団員を抜き去って突き放していく。


 歓声が沸き起こった。タンチョウはそれを聞くと悪い気はしない。トラック半周程度なら全力で走る事が出来た。


 少し塁間よりも長い。長打を打った時のような感覚になって彼は少しだけ自嘲気味に笑った。


 順調だったがインカムから再びミソサザイの声が聞こえて来た。



≪三毛猫がいた! やっぱり第1校舎の方だ。捕まえられるかもしれない。近いぞ。誰か手伝える人はいるかな?≫



 タンチョウはガクッと力が抜けるのを感じて危うく転びそうになるのをすんでの所で堪えた。



≪無理だ。行けない≫


≪3年生のリレー中よ。放送が聞こえないの?≫


≪ごめん、聞こえなかった。コジュケイは運営にいるんだね?≫


≪ええ≫


≪ちょっと頑張ってみるよ。キセキレイは手伝えないかな?≫


≪ムリー。って、なんでわたしなの?≫


≪だって、リレー走らないでしょ?≫


≪応援してるの! がんばれーってね! 他にもオオルリもいるけど?≫


≪だって、走者に選ばれているじゃないか≫


≪わたしは応援者に選ばれてるんだー。ここで全力で応援してるんだよー≫


≪そうなんだ。分かった。じゃあ、ちょっと頑張ってみるよ。学校で使えそうな物があるか探してるんだ。サスマタは使えないよね。リレーはどんな調子なの?≫


≪タンチョウが走ってる≫


≪タンチョウは速そうだね≫


≪ええ、とっても速いわ。ぶっちぎりで抜いて行ったもの≫


≪いた! 三毛猫だ! あれに違いない。僕は追うよ!≫


≪頼む、静かにしていてくれ!≫



 タンチョウは競技中はインカムのスイッチを切っておこうと後悔しながら叫んだ。



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