第六五羽 首輪をつけた三毛猫編
紅団・蒼団・黄団のそれぞれの団長が前に出た。マイクを前に3人が並び立っている様は見ている来賓の老人や教職員を圧倒させるものがあった。
それぞれの団色の長い鉢巻を額に巻いている。古いいくらか使われているはずの鉢巻なのに新品のように美しさを保っている。
体育委員長だった武田はステージから下りて鉢巻を巻いた時点で職を紅団団長に切り替えている。
その武田と対峙するように立ったのは体育委員会副委員長の前島ほのかだった。彼女の額にも黄色の長い鉢巻が巻かれていた。
前島が言うには「武田委員長が望むほどの好敵手がそう易々と現れるはずがない。誰かがそれを演じなければならない」と言って黄団団長へと名乗り出たのである。
彼女が前に立候補した時、誰もが「ああ、彼女なら武田に張り合えるかもしれない」と思って反対しなかった。
3つの団のうち2つの団の長が女性となると男たちは名乗り出るに尻ごみをした。やりたいと思う者があったに違いない。
残る蒼団は団長を決めるのに難航した。勇気ある数人の男たちが名乗りを上げていた。厳しい争いの中に自らの身を投じようという類まれなる女子生徒は武田や前島の他にはいないように思われた。
だが、いたのである。
たった1人だけだった。彼女が名乗りを上げた時に誰もが驚いた。
選挙が行われた。誰が蒼団の団長に相応しく2人の体育の猛者に張り合える人物かを比べようというのだ。
そして彼女は勝った。圧倒的大多数の票を得て彼女は誰にも恥ずかしくない誇らしいほどの煌びやかで深い蒼を冠する事になったのである。
ライチョウこと真城美鶴が対峙する2人の間に割って入った。
マイクの前に立つ3人は頷き合って右手を斜めに掲げると声をそろえて選手宣誓を行った。
「「「選手宣誓!!!」」」
前島が前に出た。
「我々、選手一同、特に黄団の団員たちは皆、一切の装飾をしません。着飾りません。
ありのままの姿を見せる事を誓います。足が遅い者は遅いまま、力が弱い者は弱いままを見せます。互いを補い合い少年少女らしく一致団結した姿を見せます。
赤と名乗るべきところを紅などと格好良く装う有様を虚勢と気付かない無知さをひけらかす真似はしません。
青と名乗るべきところを蒼などと美しく着飾る有様を虚飾と気付かない愚かさを見せびらかす真似はしません。
いずれも愚行です。我々、黄団だけが真っ新のあるがままを見せ、そして青春の輝きを見せる事を今ここに、高らかに宣言いたします!」
前島はよどみなく言い終えた。
聞いていた生徒たちは呆然としていたがどこかから拍手が起こると黄団の団員たちが拍手喝采を巻き起こさせた。
一歩下がった前島は静聴していた観客に一礼し、そして黄団の団員たちに両手を上げて応えた。
美鶴が一歩前に出た。
「我々、選手一同、特に蒼団の団員たちは皆、スポーツマンシップに則って正々堂々と戦う事を誓います。
最後の瞬間まで決して諦めません。如何なる事情を抱えた者でも互いに手を取り合い、共に走り、共に立って、共に栄光を掴みます。
互いへの惜しみない賞賛と感謝を忘れません。保護者、先生方、先輩方への感謝も忘れず、先代からこの蒼の色を受け継いだ誇りを胸に戦います。
我々、蒼団は今日の蒼天のごとく晴れ渡った心で清く、正しく、美しく戦い抜く事をここに宣言します!」
美鶴が言い終えると蒼団のみならず観客の方や来賓の方からさえも放列とした拍手が沸き起こった。
美鶴は照れ臭そうに方々へ一礼するといつまでも拍手と応援歌を口ずさむ団員たちに手を振って答えた。
一歩下がった美鶴の次は武田だった。
しかし武田は少しだけ考えた風で前に出ようとしない。
前島と美鶴が彼女の顔を覗き込もうとすると彼女はぐいと顔を持ち上げてぼそりと2人に聞こえるぐらいの声で言った。
「しかしな、私は紅という字が好きなんだ。前島、分かるか?」
「そうね、分かるかも。しきりにそう言っていたから」
「そうだ、聞いていたはずだ」
前島は呆れたように肩をすくめている。
「選手宣誓したら?」
美鶴が武田を促した。
武田が一歩前に出ると砂塵が起こった。やはり彼女は風を呼ぶに違いない。
「我々、選手一同、特に私が率いる紅団の団員は全力で戦います。決して手を抜きません。
例え敵が精魂尽き果てていようとも、足がもつれ前に進む事が出来なくなっていたとしても全身全霊で挑みます。
43年という長い年月をこの学校は築いてきました。
そしてこのグラウンドの上で多くの戦いが営まれてきた。涙、血、汗がここに流れたのです。それらを無駄にしないために我々も今日、ここに同じように流します。
そして我々、主に全3年生が持つべき態度として後進の生徒たちの全てに次は自分たちこそがこのグラウンドで全てを出し切る戦士になっていくんだという意志を継がせます。
そのためにも我々、紅団の団員たちは全身全霊で戦いぬく事をここに、渾身の力を持って宣言いたします!」
武田が宣誓を終えるとこの学校のOB・OGらしき年代の方から拍手が起こり、紅団の団員たちは武田コールを唱え始めた。
タンチョウは初めは乗り気にならず、インカムで話を続けていたが隣の者が促すので武田コールに乗るのだった。
全ての宣誓を聞き終えた男子生徒たちはひとり残らず団長に立候補しなくてよかったと安堵に胸を撫で下ろした。
これで校長がステージ上に上がり、これまで淡々と行われてきていた選手宣誓が一風変わったものになった事について言及し、体育祭の開催を承認して開会式を締めくくった。
まず初めには1年生のリレーが行われる。




