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第六四羽 首輪をつけた三毛猫編

 そして体育祭の当日である。


 タンチョウはライチョウと第3棟の周りを巡って敷地内をぐるりと一周したが三毛猫は見つけられなかった。



「参ったな」


「ええ、動物っていうのが厄介ね。動いてしまうもの」


「ああ、最終的には人の数がものを言う事になりそうだな」


「最終手段ね」


「機嫌がいいじゃないか。体調はバッチリなのか?」


「やだ、機嫌がいいだなんて。猫じゃあるまいし。体調はバッチリよ。勝つためにね。タンチョウはどうなの?」


「俺もバッチリだよ」


「そう、良かったわ。紅団のエースが体調不良だなんて残念だもの」


「エースなんかじゃないさ」


「謙遜ね。きっちりと勝たせてもらうから」



 ライチョウは「覚悟しておいて」と笑った。


 タンチョウもそれには笑って答えた。



「望むところだ」



 陽が上がっていく。


 徐々に人が増えていき、そして遂に体育祭の開会式が始まる時間となった。


 どこかで三毛猫の姿を見た生徒がいるかもしれない。


 好天は開会式まで続いていた。


 生徒会長である藤堂がグラウンドに設けられたステージに上がると「怪我だけには気を付けて楽しみましょう」という旨の話を簡潔に済ませると体育委員長である武田幸緒に後を譲った。


 彼女はゆっくりとステージ上へ上がっていく。一歩一歩を踏みしめるように上っていた。


 さっきまで止んでいた風が急に吹き始めてステージに上がった彼女の肩まで伸びている黒い髪と羽織っただけのジャージの袖と裾を靡かせる。


 腕組をして真っすぐに前を見つめているかと思えばゆっくりとまるで玉座に座る王が民草を睥睨するかのような不遜な様子を隠しもせずに全生徒を見渡した。


 そのままゆっくりと目を閉じたかと思うと一拍してカッと見開いた。そして口を開くと大きな声で言うのだった。



「体育とは、体を育むと書く!!!」



 拳を振り上げて鼓舞して見せる武田につられた生徒たちが歓声をあげた。



「体育祭とはその祭り!

 高校生ともなれば小学生よりも大人に近いが大学生よりは子供に近い。だが、もうすでに子供とは言えない心と体になって来ている。


 男たち、女たち、その他もろもろ、奮起しろ! 自分の五体を持ってぶつかり合え。足が遅かろうが、腕が細かろうが構うな。目の前の勝利を掴み取れ!!


 理由は後から付いて来る。体の反応は思考の速度よりも速い。たとえ机に噛り付いて勉学に励んできた者たちであっても一度、このグラウンドに立った以上は闘わねばならぬ。


 数式を解く、難解な漢字を書く、重厚な歴史を紐解く、遅い、遅すぎる!

 我らの青春の一瞬間を今、この場で輝かせろ!


 十数年にも及ぶ体育教育の成果を存分に発揮するのは今だ!!

 闘え、脇目も振らずに、一心不乱に! 


 男も、女も、恋人がいる者も、いない者も、観客がいる者も、いない者も、テストの結果が振るった者も、振るわなかった者も、進路に不安がある者も、ない者も、家庭に問題がある者も、ない者も、誰もかれも!


 全ての背景を教室へ置いて来い。

 正々堂々たる勝負を行え」



 タンチョウは黒々とした頭のいくつかの向こう側で熱い言葉で喋り続ける武田を見ていた。


 ステージの横では後を譲った藤堂が優し気な表情で武田の話を聞き続けるのが見える。


 耳に付けているインカムから声が聞こえてくる。



≪あれ、どうにかならないの?≫


≪すごい話だな≫


≪熱弁だ≫


≪相変わらずだねえ、武田は≫


≪タンチョウ、大変じゃない? あんなのに付いて行かなきゃいけないんでしょ?≫


≪まあ、なんとか付いて行けてるさ≫


≪わたしだったらゼッタイ無理だー≫


≪疲れないのかなあ?≫


≪ねー、いくらマイクで話してるって言っても限度があるよ。近隣住民から苦情が来るレベルでしょ≫


≪もうすぐ終わりそうよ≫



 ライチョウが口を出すとみんなが静かになった。


 タンチョウは紅団の団長を務めている武田幸緒の楽しそうで嬉しそうでいわゆる喜色満面の顔を見ながら彼女の檄を聞くのだった。



「私もこのステージから下りたらひとりの戦士になる。

 紅団を率いる団長になるのだ。私は必ず勝つ。


 これで話を終える。私だけが勝利を目指すのでは勝敗は付かない。誰かが私に負けないぐらいに勝とうとするからこそ勝負となり得る。好敵手が現れる事を望む。


 そして最後に締めくくる言葉は怪我無くなど生ぬるい。傷を負え、白熱しろ。それでは今ここに、体育祭の開催を宣言する!」



 ステージ上から武田は下りていった。


 くるっと体の向きを変えた彼女は真っすぐに力強く前を見ていた。


 その姿には潔さや毅然とした態度さえ見えてグラウンドから少しだけ見上げて話を聞いていた生徒たちは正々堂々たる勝負に必要な全てを学び取るのだった。


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