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第五一羽 古びたランタン編

 そして藤堂を引き連れてタンチョウは生徒会室を離れて行った。


藤堂が部屋を出ようと扉の方へ向かい始めると織川は立ち上がって心配そうな顔をして藤堂を見送っていた。


 外に出て階段の方へ向かうと織川が部屋の外に出てタンチョウを睨みつけて来ているのが分かった。


 その隣にはコジュケイの姿もあった。彼女もなんだか不安そうな表情をしている。


 タンチョウは全てを任せてそこを離れて行った。


 織川は腕組をして頬を膨らませてタンチョウの姿が見えなくなるまで背中を睨みつけていた。


 コジュケイはそんな彼女の隣に立って様子を見ていた。窓はライチョウに頼まれていた通りに既に開けている。


 そんな時ふと頭に浮かんだのは物音のしない喋り声も聞こえない静かな生徒会室だった。


 藤堂のいない生徒会室が久しぶりだった事に気が付いたのである。


 織川は酷く寂しそうな顔をして何やらこの世の終わりに匹敵する絶望が襲ったような動揺を表して生徒会室の中へと戻った。


 コジュケイもその後に続いたが驚きのあまり立ち止まってしまいそうになった。

 もうすでに古びたランタンがなかったのである。


 織川はイスに座ってさっきまでやろうとして準備していた作業をそっちのけで途方にくれていた。ランタンが無くなっている事に気付いている様子はない。


 開いた窓からは風が吹き流れてきてカーテンを静かに靡かせていた。事件など何もなかったかのように藤堂のいない生徒会室には静かな時が流れて行った。



 そんな事とは露知らずタンチョウは心配しながら藤堂を引き連れて歩いていた。



「彼女はよほど俺の事が嫌いなんだな」


「そうだね、織川は優秀なんだけど人嫌いをするからね。あれは欠点でもあるけれど良いところでもある。清々しいほどストレートに表に出すだろう?」


「ああ」


「彼女は教頭先生も好きじゃないんだよ。会議で一緒になるといつもとても嫌そうな顔をするんだ。

 なぜだって尋ねるとスーツの色が好きになれないって言うんだ。そんな事でと思うかもしれないけれどそんな事で嫌いになってしまうんだからね。君を嫌う理由も得てしてそんな物さ」


「そうか。まあ、確かに教頭のあのスーツの色を好きになる奴は稀だろう。忙しいのか?」



 タンチョウは藤堂が持つ書類を見ながら言った。2人はまだ歩いている。


 タンチョウはさっきよりも歩く速度を緩めている。藤堂もそれに合わせていた。



「そうだね。生徒会長なんてそんなものだろう。色々と考える事があるよ」


「そうか、俺は手伝ってやれないからな。逆に迷惑をかける方になるだろう」


「なに、心配いらないよ。学校にはたくさんの生徒がいる。誰が何をしていたってこの学校の生徒なら僕が把握すべき一生徒だよ。そしてそれが友人ならね、なおさら考えるのは楽しい事だよ」



 藤堂は笑って言った。屈託もない表情を見せるのでタンチョウは藤堂が慕われる理由の一端を見た気がした。



「野球の方はどうなんだい? 野球部の部費を増やしてくれという要望が来ているんだよ」


「そうか、それはぜひ増やしてくれ」


「でも、この学校はバスケ部とバレー部が強いからそっちの方が優先されるんだな。難しいね。今年は強いのかい?」


「まあ、そこそこに」


「そこそこか。エースの故障が多いそうじゃないか」


「あいつはフォームが安定しないからな。肩や肘の痛みが離れないらしい。いるんだよ、練習中やブルペンでは安定して投げられるけれどバッターボックスに人が立つと急に崩れる奴が」


「へー、緊張だね、それは。僕も集会で前に立つ時とイベントで前に立つ時では気持ちが違うからね。似た感覚かな?」


「それは体験した奴にしか分からないさ」



 階段の所で2人は立って話していた。


 通りかかる生徒の中には藤堂を見ると声をかけていく者がいる。



「慕われているな」


「そうだね、嬉しい事だよ」


「さっきの美術室前での一件だがあそこにいた事は誰にも言わないでくれ」


「どうして?」


「落ち込むとあそこで考え事をするんだ。誰にも知られたくない」


「なるほど。分かった。それは秘密にしておこう」


「よろしくな」


「思いがけず君の秘密をひとつ知ってしまったわけだ。僕の秘密もひとつだけ教えようか?」


「なんでそうなるんだ?」


「いや、似たような秘密だからね。僕も落ち込むとある場所に行って考え事をするんだ。僕は屋上に行くよ」


「そうか」


「屋上にいる時の僕はセンチメンタルになっているからよろしく頼むよ」


「分かった。あとこれ」



 と、言ってタンチョウがポケットから取り出したのは野球で使う公式球だった。


 赤い紐と白い革の特徴的な姿をタンチョウの手の上で見せている。土が付着していてしっかりと使い込まれている物だった。



「これは?」


「ミットがあるのならボールもあった方がいいと思ってな」


「ありがとう。やはり持つべきものは友達だね。新しい道が開けるよ」



 藤堂はタンチョウからそのボールを受け取ると生徒会室へ戻るために歩き出した。



「悪かったな、こんな事に時間を取らせて」


「謝らないでくれよ。楽しい時間だった。ひと時の休息は思いがけずにやって来るんだね。もしかしたら絵を描くよりも良い時間を過ごせたかもしれないよ」


「そうか、なら良かった」


「君も落ち込むくらい考えてしまう事があるのなら僕にぜひ相談してくれ」


「ああ、今度はそうするよ」



 そして2人は生徒会室の扉の前で別れた。



「ここで別れた方がいいだろう。織川がまた怒るだろうからね」


「ああ、俺も睨む彼女を見たくないからな。それじゃあ、またな」


「ああ、絵にはボールをしっかりと載せるからね。完成品は見てくれよ、アドバイザー」


「分かった」



 タンチョウが藤堂を誘導出来ていたのは5分ほどだった。短いようで長い時間だろう。十分とは言えないまでもある程度の時間を稼げたに違いない。


 ポケットからスマホを取り出すといくつかの通知を見て安心した。


 ライチョウからでターゲットを確保した報告が入っていた。


 タンチョウはあの状況でどうやってランタンを確保して脱出したのかどう考えても分からなかった。


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