第四九羽 古びたランタン編
もうすぐ昼休みが終わってしまう。
出来る事は今のうちにしておきたいタンチョウはとりあえず学校の中を徘徊する事にした。
特にこれと言ってする事はないのに気が付いたのは歩いて少し経ってからだが何かあるはずだと思いつく限りの場所に足を運ぼうとしていた。
生徒会室は2階にある。
10畳ほどのスペースの部屋で第1会議室と隣接しており、外部から身体を通す事が出来る箇所はいくつかあった。
窓があるが2階なので校舎の外からの潜入は不可能だった。出入口は2つある。生徒会室と廊下を繋ぐ扉と会議室と繋ぐ扉があった。
そして廊下に面した壁の上下には通気窓がある。
ここからの潜入を試みるならば職員室に忍び込むためにタンチョウとライチョウの2人が使った方法と同じになる。
どれが正解なのかタンチョウには判断しかねた。自分なら正攻法で真正面の扉から入り込む方法を考える。
≪実行は6時限目前の休み時間にしよう≫
≪了解≫
≪生徒会室に来るんだよね?≫
≪そうだ≫
≪その時間には織川副会長と藤堂会長がいるわ≫
≪そうか、誘導するしかないな≫
≪ええ、そうね。藤堂会長はタンチョウがどうにか出来るでしょう?≫
≪俺か?≫
≪しかいないと思う。誘導という目的でその場から離れさせる事が出来るのはタンチョウだけだと思うわ≫
≪確かにねー。知り合いならいくらでも連れ出せそうだけど。無理強いは良くないよ≫
≪そうだねえ。無理強いは良くないね。タンチョウはどうなの?≫
≪いいよ、やろう。でも、ランタンの確保は誰がするんだ? コジュケイは無理なんだろう?≫
≪私は無理よ。出来ない≫
≪私がやる。任せてちょうだい≫
≪分かった。頼んだぞ、ライチョウ≫
≪大丈夫なのー?≫
≪上手くやるわ。コジュケイ、上手く連携を取りましょう≫
≪ええ、もちろん≫
≪じゃあ、ひとつだけお願いするわ≫
≪もう?≫
≪ええ、プランは出来上がってるから。窓をひとつ開けておいてね≫
≪分かった。タンチョウも誘導はしっかりやってね≫
≪努力する≫
≪じゃあ、それぞれの仕事に入りましょう≫
作戦会議は終わりを迎えた。
5時限目が始まる鐘が鳴ったのだ。
昼休みを終えたこの時間帯になると依頼の達成を待っていた大友幸大の頭はいくらか冴えて来ていた。
告白の言葉を考え直していた。ランタンが使えるのなら告白のための呼び出しの文を考え直さなくてはならなかった。
もうすでに時間はない。
徹夜明けの思考は彼から冷静さを少なからず奪っていた。冴えたと言っても寝不足には変わりない。
そんな寝不足の頭には真雪の予定を考える余地はなかった。
吹奏楽部の彼女はいくらか放課後には余裕がある。運動部と比べると比較的自由に動く事が出来る事を幸大は知っていた。
そんな頼りない完全に彼女に依存した期待を幸大は知らず知らずのうちに自分の中に確立していた。ほとんど確信のように抱いている。
だが、その確信が満身創痍の彼を走らせていた。
ペンが紙の上を踊っていた。繰っているのは幸大だった。
彼のあの至福の表情は形容しがたい。ニヤニヤと笑っているのでもない。ただひたすらに踊りと細い足が残す軌跡を目で追って幸福への道を邁進していくのだった。
もはや余りの寝不足で常軌を逸したと考えられる。
彼は自分の右手に持っているペンと右腕が支配から独立して好き勝手に振舞うのを小さな舞踏上の観客席から眺めている。
踊り子のイメージが彼に想像力を与えていく。世界史の重厚で圧倒的な賢明さと踊り子の想像力が彼を十分に感応させていく。
そして彼ははっきりと満足の行くこれまでにない高質な呼び出し文を考えついた。




