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第四七羽 古びたランタン編

 藤堂は真っすぐに美術準備室へ向かった。タンチョウの願いもここで叶えられるかもしれない。

 ターゲットを想わぬ方法から肉眼で確認する事が出来る望みがあった。


 準備室の鍵を開けた藤堂は鼻歌混じりで中に入るとあれこれと探し始めた。


 タンチョウは入口で立ってそれを見ているふりをして藤堂を監視していたが目では【古びたランタン】を探していた。


 藤堂が準備室内の物を引っ掻き回しているがランタンは見つからなかった。



「何を探しているんだ?」


「うん、僕の描くデッサンのモデルを探してるんだよ」


「デッサン? 絵を描くのか?」


「そうだよ、僕の好きな事のひとつは絵を描く事だからね」



 藤堂はまるで周知の事実を告げるような言い方だったがタンチョウは全く知らなかった。



「そうだったのか」


「あれ、忘れてる?

 小学校の頃、僕の油絵が市のコンクールに入選した時に君は大いに褒めてくれたじゃないか」


「知らない。覚えてない」


「僕は覚えてるよ。あれは確か校外学習で回った有形文化財の建物を題材にして描いたものだった。君の称賛は実に僕を喜ばせたよ」



 本当に丸っきり忘れているタンチョウは惚けるしかなかった。


 肩をすくめて見せる間にも藤堂は探し物を続けていた。


 その様子を見ていたタンチョウは嫌な予感がして恐る恐ると言うように触れ難い事実に指先でその輪郭をなぞるような慎重さで尋ねた。



「何をモデルにするつもりなんだ?」


「うん、もうひとつは決まってるんだよ。

 ここにあった古いランタンを使うんだ。でも、なんだかしっくりこない。テーブルの上に置かれると印象が変わる物だね。もうひとつ欲しいと思ったんだ」



 間違いなく古いランタンを使うと藤堂は口にした。

 タンチョウは足元から崩れ落ちそうな気がしてなんとか踏みとどまったが落胆は計り知れなかった。



「やはりランタンというものは灯りを点す事が最大の象徴になる。もうひとつの題材に影を上手く利用すれば面白い絵を描けると思うんだが」



 藤堂は「どう思う? 僕の良き理解者たる君は」と続けた。


 タンチョウは答えなかった。絵の事はまるで分からない。美術の成績は昔から悪かった。


 長い沈黙の末にタンチョウはやっと口を開いた。藤堂が問いの返答を待っているような気がしたからだった。



「まあ、好きなように描いたら良いだろう」


「君らしい答えだ」



 それからも藤堂は準備室の中を引っ掻き回していた。


 あれやこれやと取り上げては「これも違う。あれも違う」と呟いては置いていく。埃が舞って咳き込んでしまう。鼻がむずむずするので早く帰りたいがなかなか帰る事も出来ない。


 タンチョウはここに居る用もなくなったのに変わらない態度で藤堂の様子を見ているのだった。


 ようやく藤堂は題材を見つけて顔を上げた。



「これにするよ」



 そう言ってタンチョウの前に差し出したのは野球のグローブだった。


 それも彼が持っていたのは大きなキャッチャーミットだったのでタンチョウは呆れた。



「それは難しいだろう。複雑だ。そっちの外野用にしたらどうだ? そっちの方が簡単だ」


「これでいいよ。時間をかけて描くつもりだからね。

 君と話をしていたら野球の事が頭から離れなくなった。完成品はぜひ見てもらおうかな。そしてまた称賛の言葉を聞きたいね」


「絵が良い物なら評価するさ。どこで描くんだ?」


「いつも生徒会室で描いてるよ。おっと、完成品しか見せないからね。訪ねて来ても門前払いだよ。君は権田にも副会長の織川にも嫌われてるからね。困ったもんだよ」



 キャッチャーミットを脇に抱えた藤堂は「出ようか」とタンチョウを先に促して美術室から出た。

 施錠しながら彼は穏やかに言った。



「君と話をしたのはとても久しぶりだ。楽しかったよ。また話そう。絵が完成したら教えるから」


「楽しみにしておくよ。一番に見せてくれ」



 藤堂はまた笑った。最後まで彼はにこやかな笑顔を見せていた。


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