第四三羽 古びたランタン編
1時限目は数学だった。
幸大は授業の内容を書き留める事も出来ずにいた。
1分ごとにため息をついていて途中からは自分が何を考えているのかも分からなくなってしまう始末だった。
数学の授業の終わりを告げる鐘が鳴った。救いの鐘とは全くならなかった。
勿体ない時間を過ごしたものだと半ば呆れて冷静さを保つように努めだしたが、やはり居てもたってもいられなくなってトイレの方へと向かうのだった。
短時間に何度も尿は作られない。
下腹部に力を込めてみるがチョロっと出る事もなかった。それがまた幸大の無力感を募らせる。
肩を落として教室へ戻ろうと歩いていると扉の前でばったりと真雪に出くわした。
彼女は扉の前で立ちふさがるように立ってしまった幸大をじろりと鋭い目で見つめた。
「顔色、悪いよ」
「寝てないんだ」
「一睡もしてないの?」
「ああ、してない」
「そ、小テストがあるわけでもないのに。何してたの?」
「別に、なにも」
「アンタって嘘が下手だね。馬鹿」
幸大は頭が回らずに咄嗟に誤魔化す事も出来ずに答えてしまった自分を恥じた。言い返す気力もない。
例えあったとしてもなかなか言い返す事も出来ないはずなのに彼は適当な文句を探していた。
何かを言おうと言葉を探している幸大は真雪には沈黙しているようにしか見えなかった。
「どいて、私、外に出たいの」
「ああ、ごめん」
幸大は一歩下がって真雪が通る道を開けた。
横を通り過ぎていく彼女の横顔を見たい欲望に駆られていたが彼は凡そ全身の力を使ってそっぽを向いていた。
真雪は扉の前で色々と奮闘している男の傍を無造作に通り過ぎていった。
少しだけ離れた所で振り返ってみると抜け殻のような男を認めた。まるで制服だけが人の形を成しているようにすら見えて真雪は半ば呆れながらはっきりとした声で言った。
「保健室でベッドを借りたら? 体調不良だと言えば1時間ぐらいなら貸してくれるかもしれないから」
たった数歩しか離れていない。
彼女の口の動きが見えていて、更に言うなら視線の動きさえ見えそうなほどの距離だったのにこれだけ彼女が大きな声を出した所を幸大は見た事がなかった。
「そうするよ。もうダメだと思ったらね」
幸大は女子トイレに入っていく真雪の背中を扉の前で見送った。
午前10時を過ぎた頃に徹夜の影響がピークとなってやって来た。
うつらうつらとさせながら幸大は化学の授業のノートを取る事を進めているが文字がよれよれになっていて黒板の文字が上手く読めない。
片肘をついて体が倒れないようにするのが精いっぱいだった。そんな時に彼はノートの新しいまっさらなページを開いて告白の方法を考えようとした。
そうして頭を使えば眠気も覚めていくに違いないと考えての事だったがそれから15分ほど居眠りしてしまった。
もちろん教員にバレていたが注意もされずにほとんど安眠の形で眠りについていた。
目を覚ますと無理な姿勢の維持によって背中や首が突っ張って痛んだ。
適当に揉み解すと彼は板書を写す事よりもまず先に告白の仕方を考える事を優先するのだった。




