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第四二羽 古びたランタン編

 1時限目前の休み時間に幸大は眠気覚ましにうんと思い切り伸びをしてトイレの方へと歩き出した。


 特に用はこれといってない。体を動かさずにはいられなかったのだ。



「よお」



 顔を洗っている幸大の肩を叩いて挨拶したのはタンチョウだった。



「おはよう」


「大丈夫か? 顔色が悪いぞ」


「大丈夫だ。あんまり寝てなくてな」



 タンチョウは「これはいよいよ深刻だぞ」と考えてかける言葉を探したがしつこく相談を促すのも遠慮して気の抜けた返事をするばかりだった。



「そっか」



 タンチョウと別れると鐘が再び大きく鳴った。


 頭にガンガンと響く鐘の音がまるでお堂で聞いているように全身を震わせていた。


 高校3年生、いつから真雪の事を好きになったのか幸大は覚えていない。


 はっきりと分かっているのは鳥の巣の活動に参加する前から彼女を気にかけていたという事だけだった。


 この学校ではクラスが決まるとほとんどクラス替えは行われない。離れ離れになる事はなかった。


 2人の間に実際的な壁は無かったにも関わらず3年間一度も隣の席になった事がないという運命的な目に見えない壁があった。


 じれったいこの距離に悶絶していた幸大は鳥の巣についてはこれ幸いとしつつもやはりどこかで焦りを感じていた。


 思い返してみると面白いもので3年間たったの一度も席が隣になった事がないという事実は幸大を大いに困らせた。


 いつか自然的になるだろうと考えていたのに一向にそうならない。運命を呪った。それほど信じていない神さえも。


 いつぞやキセキレイが言っていた「ライバルの存在」が幸大の焦りに拍車をかける。


 通常の高校3年生ともなれば登下校を共にしたり、互いの自宅で過ごす夜についつい長電話をしてしまって寝不足になるなどという滑稽でもあるがその時にしか出来ない何物にも代えがたいじゃれ合いがあるものである。


 幸大はそうしたものへの憧れが全くないと言い切る事が出来なかった。人並みには憧れている。


 それでもやはり自分のロマンス的な内面がありきたりな想像できるじゃれ合いを認める事は出来なかった。


 根本的にはその憧れを否定する。だが、真雪の隣に座っているこれといった特徴の見出せない脇役的でのっぺりとした男たちがそれを憧れていないとも限らないのだ。


 そして時間は残り少ない。3年生ともなれば卒業を意識し、進路を考える。時々刻々と学生生活は過ぎていく。


 時の流れを告げる鐘の音を数えながら、彼は彼女を想った。


 輝いていた昼間の学校生活が夜のおぞましい闇に沈むのを見るとき、彼は彼女の事を考えた。


 桜の花がその盛りを過ぎていき、青々とした空から陽が斜めに射し込んで穏やかな風が教室のカーテンを靡かせた時、彼の視線の先には彼女がいた。


 紅と黄の葉が山々を覆い、遂には葉が落ちて白く染まった山の稜線と空の境目がはっきりと見えなくなった景観を目にした時、彼は彼女の手を取りたいと思った。


 そして冬を越えて移り変わっていく自然の中から青春の萌芽を見出すのだった。


 彼は確信のように思うところがあった。

 自分は間違いなくこうした永遠の青春を繰り返すだろうと。



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