第四一羽 古びたランタン編
帰宅したオオルリはひとりベッドの上に横になって考えた。
沈鬱な表情をしている自分を見るのはあまりに辛いのでカーテンは閉め切ってしまった。
往々にして横になったままでは決定的な力強い考えは浮かばないものだがオオルリの場合もその例から漏れなかった。
そして煮詰まった彼は立ち上がると不意に実際的な行動への決意が生まれた。
彼はコマドリこと豊島真雪に告白する決意を固めたのであった。
そして自分の癖との別れも取りやめてしまった。
タンチョウのアドバイスを参考にしたのかもしれなかったし、あるいは彼女がこうしたロマンチックな物事を完全に嫌っていると思う事も出来なかったのだ。
決意が固まるとオオルリは自分の身体の全細胞がその意志を支持するかのように一致団結してこれまでにない力を生み出したのであった。
さっそく机に向かってペンを手に取った彼は何度も読んで暗唱すらできるお気に入りのフレーズを口ずさみながら手紙を認めた。
書いては消して紙とインクを無駄にしていく。
次々と重なる駄文たちが山となる一方で減らしていくインクと紙とロマンの数々が彼に期限を設けさせた。
ほとんど朝になるまでオオルリは机の前で孤独な闘いを繰り広げていた。
ひどい眠気に襲われながらオオルリは大友幸大として学校へ向かった。
休むわけにはいかない。理由は語らずとも分かるだろう。
道中、彼は何度も胸ポケットの当たりを右手で押さえた。
午前8時20分、幸大が学校の玄関で内履きと外履きを交換した。
彼がちらりと目をやると真雪はすでに登校していた。彼女のスニーカーがすでに下駄箱に入っていた。
彼は精神的にもみくちゃにされているような気分を味わいながら教室へ入った。睡眠が足りていないとそうした気分になりがちだが彼は毅然とした態度で席に就くのだった。
幸大の家は真雪の家よりも学校から近い。
バス通学をしている真雪が家を出るのは午前7時30分だったが、その時間まで彼は机の前にいたのである。
もうずっと延々に座っている気分の幸大は机に突っ伏してしまいたい欲求に抗いながら横目で真雪の姿を瞳に映した。
それだけでなんと気分の晴れる事か。幸大は凡そ1分間も彼女の横顔を眺めていた。
読みかけの本を開いて活字を追うのに夢中の真雪はそんな視線に気付いている様子もない。アガサ・クリスティが彼女を虜にしているのだ。
そして鐘が鳴った。時刻は午前8時30分。担任の教員が入室してやっと真雪は本を閉じ、幸大は真雪から目を逸らした。
署名が必要な書類を担任が配っていく。提出期限を口にしているが幸大の耳には届かなかった。




