第四〇羽 古びたランタン編
ロマンチックな物が好き。
オオルリこと大友幸大は幼少期からそんな物の事ばかりを夢想していた。
そして夢想は夢想でしかない。
体現してみようと試みるも世間の風当たりや目は厳しいもので彼を異端児のように見る辛らつさに恐怖し、いつからか体現するのを諦めていた。
それでもやはり言葉の端にはそんな彼の夢が現れる。
彼はほとんど現実の全ての物をロマン的に考える癖がついていた。
装いこそがロマンであると気が付いたのは中学生になった頃だった。
それと引き換えに彼は魔法を失っている。
あまりに現実的な物が彼に押し寄せるのはそうしたものに彼がひと際に敏感だったからだろう。
情熱や至誠、感情的な物が理性で語られ、虹を分解して正体を暴いた科学的な論理性が怒涛の勢いで彼を襲うのだった。
それでもやはり彼は無慈悲で一切の虚飾を許さない現実の片隅でロマンを追う。
道端を歩いている時に一欠けらの石を見つけた。どこか歪で欠けた個所が見られるその石はいずこからやって来たに違いない。
その傷に勇者的な、冒険の途中であるような物語を与えた。
竹の笹船を川の流れに任せた。風に煽られて船体を揺らし、勾配で変わる流れの向きにも逆らわずに進んで行く笹船を走って追った。
流れに任せて下るその姿に、あるいは風に煽られても姿を保ち、急な下りに勢いを増して水をかぶりながらも船体を真っすぐに維持するその姿に情熱的な懸命さを与えてむやみやたらに感動するのであった。
追えなくなった末に川の岸辺から見えなくなるまで見送ると家路に就く道中に冷めやらぬ感動に身を震わせたものである。
その日の夜は海まで下るに違いないと想いを馳せて大海原へ到達し、沖へと出て行くちっぽけな笹船の類まれなる旅の安全を勝手気ままに祈るのだった。
こうして何気ない物事に神秘的な、情熱的な、無限的な装いもとい物語を与える癖がついているのだった。
だが、それも高校生になる頃には鳴りを潜めていく。
要するにひとりの人物に対してもそうした装いを与えて現実と夢想のギャップに苦しむ自分に気が付いたからである。
そんな癖と別れを決めたひとりの男が大いに悩んでいた。
「オオルリ、大丈夫か?」
「タンチョウ、僕はもうどうしたらいいのか分からないんだ。どうにかなってしまいそうなんだ」
「悩みがあるならいつでも相談に乗るからな」
「ありがとう。たぶんきっと、どうしようもなくなったその時には口を開くと思うから」
「分かった。考えすぎは良くないぞ」
前回のペットボトルロケットの依頼を達成させた後、特に語るような問題もなく過ぎ去っていったように思われた。
だが、たとえ小さくとも波紋はいつまでも残っているものでいつしか大きな波となり、オオルリの心を搔き乱していた。
再び新たな依頼が投稿されていつものようにタンチョウがメンバーを集めた。初めは休むつもりのオオルリだったがタンチョウが強く勧めるので協力する事にした。
今はパッケージを確保して帰る所だった。
「オオルリ、ひとつだけ言っておくぞ」
「なんだ?」
「大事な物が、譲れない物があるのならそれは貫くべきだ。誰に何と言われようともな」
「それが出来ればどれだけいいか」
「そうだけど、なんていうか今のオオルリにはこのアドバイスがぴったりと合うような気がしたんだよ」
「でも、出来なかったら?」
「どうして出来ないんだよ?」
「きっと、怖いからだ。拒絶されるかもしれないって考えると怖いんだ」
「まあ、分かるよ。いつだって何かを打ち明ける時にはそんな事を考えるから。
でも、そんな怖い事に直面してる時に自分がこれまで貫いてきた物事を手放すのは唯一の武器を失うのと一緒じゃないかと思うんだ」
「経験談か?」
「まあ、そうなるな」
オオルリの問いにタンチョウは苦笑しながら答えた。
それから2人は別れの挨拶を済ますまで無言で歩いた。




