第一三羽 蔵書編
図書室に入ったタンチョウは昼休みと同じように受付のデスクで作業をする友紀ちゃんに話しかけた。
「また一つ本を探して欲しいんだ」
友紀は迷惑そうな顔もしないまま表情を変えずにタンチョウを見た。「なんて本?」と眼で問いかけているように見えてタンチョウはすぐに答えた。
どこかに教えてもらってから一先ず離れるとタンチョウはすぐに戻って来た。
「場所がよく分からないよ。教えてくれないか」
そして友紀はタンチョウの思惑通りに受付から離れた。
その隙にアオゲラがデータを書き換える手筈になっている。こればかりは上手くやってくれるのを祈るばかりだった。
「ここにあるよ」
「ああ、良かった。これだよ、これ」
タンチョウは喜ぶ振りをした。別段これが読みたいわけでもない。見つかりにくそうな本を挙げただけだったがすぐに彼女は見つけてしまった。
アオゲラがデータの書き換えの作業を終えるとスマホにメッセージを入れる手筈になっている。
設定で彼女以外のメッセージを通知しないように変えて来たので次に振動を感じる時は彼女が仕事を終えた事を報せているのだが、その報せはまだやって来ない。
「こんな時間まで委員会の仕事をやってるの?」
「うん、本に携わるのは嫌いじゃないから。今日のアンケートや購入希望の本をまとめているの。次の会議に使うから」
誰に言われてやる事でもない。きっと彼女がやらないでもいい事なのだろうがこうした影の努力が積み重なって学校は回っていく。
「嫌にならないんだ?」
「ならない」
「でも、誰も見ないよ。それにきっと誰も褒めない」
「うん、褒められた事はない。見られたくもないし。でも、私は図書委員だから」
職務に従事する彼女が一介の生徒の様には見えなかった。
「じゃあ、もういいよね」
友紀はタンチョウをその場に残して受付のデスクに戻ろうとした。アオゲラからのメッセージはまだない。
「ちょっと待って」
彼女を本棚の角で引き留めるとタンチョウにはデスクが見える位置になった。アオゲラの姿はパソコンのディスプレイの影になって見えない。
タンチョウはなんとか適当な話で彼女を引き留めた。適度に怪しまれず、そして話が長くなるような話題を選んだ。
声に気が付いたアオゲラがタンチョウに見えるようにもう少しだけ時間がかかる事をジェスチャーで教えていた。
だが、そう長くは彼女を引き留めてもいられない。
友紀が振り返って受付の方を見ようとする。そしてそれをタンチョウが引き留めた。そんな事を2,3回繰り返しているとスマホが振動した。
アオゲラが成功したのだ。タンチョウはホッと一息ついてアオゲラが図書室から出て行くのを見届けてから友紀と共に受付へ戻った。
貸し出しの手続きをして友紀にお礼を言うと友紀が窓の方を見ながら呟いた。
「今なら購入希望の記入がまだ間に合うけれど」
そっぽを向く彼女の視線の先には昼休みに見た購入希望の用紙が置かれてある。タンチョウは笑ってペンを持った。
「思い出したんだよ。あの本の名前をね」
その名前を枠の中に書くとそのまま彼女へ手渡した。そしてタンチョウはそのまま図書室を出て行った。
「アオゲラ、ありがとう。よくやってくれた」
タンチョウがお礼を言うのにアオゲラの表情は浮かばない。
「ごめんね、タンチョウ。実は出来てないの」
「どういうことだ?」




