第一一〇羽 校長室の木箱編
校長室前に徐々に近づいていた。
タンチョウは体調の不良を感じながらも作戦は実行するつもりでいる。出来ると考えていた。支障は今のところない。体の不調以外には。
ミソサザイに言うべきか未だに迷っているが彼は言おうとしなかった。
校長室の扉は他の部屋とは様子が違っていた。茶色い両開きの扉はとても重そうだった。扉の中心には装飾が施されているがとても豪奢とは言えなかった。鍵は当然ながらかけられていてがちゃりと中の方で止まる感覚を手で感じ取ったタンチョウはピッキング道具をポケットから取り出した。
職員室やロッカーとは違う鍵の作りになっているのは一目瞭然だった。タンチョウは初めて校長室に入る事になるのが鳥の巣への依頼である事を少しだけ残念に思った。
タンチョウが1年生の頃、当時の3年生が大会で収めた成果の表彰が校長室で行われた事がある。タンチョウはそれを少しだけ羨ましく思っていた。
鍵穴にピッキング道具の細長い突起を差し込むためにしゃがむと冬野がタンチョウを止めた。
「鍵があるよ」
冬野は小声で喋っていた。タンチョウはそれを可笑しく思って笑ったが冬野は全く分からないらしく首を傾げて慣れた手つきで鍵を鍵穴へと差し込んだ。
鍵が開く音が聞こえた。
音を立てないように扉をゆっくりと開いたが軋むような音が響いてしまった。暗い廊下に阻む物のない一直線の通路は間違いなく両端の壁までその微かな音を伝えただろう。
扉の先から漏れた空気は廊下に漂う空気とは明らかに違っていた。柔らかい絨毯、整えられている棚、脚の短いテーブルの両側に4つの椅子、その奥には大きい机が置かれていた。どれもが考えられた色調で合わせられていた。
見たところそれらしい木箱はなかった。
冬野とタンチョウはゴーグルをつけて頷き合うと電源を入れて木箱を探し始めた。タンチョウは少しだけ楽しそうだった。ワクワクしているのが分かった。彼は鼻歌を歌いそうなほど浮かれていて不調が少しだけ軽くなった気がしていた。こうしたゴーグルに初めて入る場所、なかなか入れない場所を捜索するのが楽しかったのである。
彼はどうやら校長室の机の鍵のかかった机を開けるのに成功した。鍵をひとつひとつ開けていくのは手間だったが必要な事だった。
暗視ゴーグルの色の変わった光景はタンチョウにとって初めて見る物だった。ちかちかと目が眩むので体の不調も相まって気分が悪くなるのを感じていた。
校長室の机の棚を全て開けて中を確認したが書類や細かな物ばかりが置いてあって依頼の木箱らしい物はなかった。
タンチョウは顔を上げて冬野の方を見るとまだ見つけられていないようだ。
「これは長くなるな」
独り言ちるとため息をついて捜索を再開した。




