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第一〇九羽 校長室の木箱編

 タンチョウが屋上の入り口前に着いた時にはまだミソサザイは居なかった。


 少しだけがっかりとしたタンチョウだったがすぐに気を取り直してミソサザイがやって来るのを待った。階段に座ると尻がひんやりとして冷たい感覚を覚えた。後ろからは雨が屋上の床を叩く音が聞こえてくる。土砂降りだろう。


 例え足音が聞こえて来たとしても雨音にかき消されて聞こえない。タンチョウは真っ暗な場所で待ち続けた。


 階下の灯りに影が差した。揺れている。タンチョウは人がやって来ると分かった。


 そして茶色いスーツを着た髪の毛をパリッと固めている中年の男性の姿が見えた。


 この学校の教頭である冬野正蔵だった。



「冬野教頭………」


「やあ」



 タンチョウは驚きのあまり言葉が出なかった。



「どうして」


「同じだよ。君たちとね」


「いつからですか?」


「少し、前からだよ」


「そうですか。教員がいるのにも驚きましたが、まさか教頭とは思いも寄らなかったです」


「ごめんよ。隠していたわけではないんだ」



 冬野は気遣うタンチョウを見て困惑するのを和らげようとした。そうでもしなければ仕事に支障が出てしまう。



「行こうか」


「はい」



 タンチョウは袋からゴーグルを取り出してミソサザイに渡した。


 キセキレイに習った方法で電源を入れると装着ベルトを合わせた。裸眼と比べればいくらか物が見る事が出来るようになった。



「よし、大丈夫そうだね。行こう」


「はい、行けそうです」



 そしてタンチョウと冬野は階段を下りていった。


 ミソサザイが冬野教頭である事を知ったタンチョウは2人きりで階段を下りていくのに不思議な心地がした。


 怒られるわけでもなく、褒められるわけでもなく、ただ一緒に教員と歩いて行く。それだけでタンチョウは参ってしまうような気持ちになっていた。


 廊下に出ると辺りは真っ暗で外の街灯が校内を照らす始末だった。と、言っても照らされているのも僅かで窓のない場所は途端に真っ暗になる。タンチョウは暗がりを怖い点った事はない。小学生の時、野球クラブの少年会で肝試しをした事があるが彼は墓の周りを歩くのも平気だった。


 それなのに何故か今日に限って寒気がする。嫌な予感がする。手足が冷えて来ていた。首筋に風が当たると全身の温度が低くなったような気がする。


 どうにも良くない。朝から感じだした体の不調のピークが今だった。


 廊下を歩いているが警戒する必要は全くないように思われた。人がいるようには全く見えない。校舎の2階の廊下では2年生の教室がある。各教室は真っ暗なので生徒たちは残っていないように思われた。


 タンチョウはそれでよかったと思っている。今の時刻を選んでよかったと。


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