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第一〇七羽 校長室の木箱編

 野球部に所属しているタンチョウはサードを守る名手として知られていた。2年生になってから誰にもそのポジションを譲った事はなかった。


 守備のみならず攻撃においてもチーム内でトップに入る出塁率を誇っていた。


 3年生ともなれば多くの事を期待される。タンチョウもまたその期待を一身に背負っていた。


 野球部は昨年に部員内の喫煙騒動があった。発覚したその年は公式戦に出場する事が出来ずにいた。タンチョウはそうした過ちを犯した先輩を責めはしなかった。自業自得であると考えて静観していると多くの先輩が打ち合わせたかのように退部していった。


 彼はほとんどそれを残念にも思わずに見送っていたのである。涙は流さなかった。白状であると言われる事さえあった。


 それでも彼は試合に出られないでも部に残った先輩には周りが驚くほどの敬意を払った。それがまたマネージャーに転向を勧められて選手兼マネージャーである事を選んだ先輩だったのが彼の心を非常に強く打ったのである。


 悪天候の練習は非常に地味な内容になる。基礎トレーニングばかりになって徐々に体力を削られていくのだ。


 最低限のトレーニングを終えると各自でトレーニング内容は自由になったのでタンチョウは素振りを行った。体育館脇の軒下に行くと地面はひどくぬかるんでいて明日になっても乾いているか分からなかった。


 200回を超えた頃、練習の終わりが告げられた。タンチョウは汗だくになり、手の甲で額を流れる汗を拭った。


 どっと疲労感を覚えたタンチョウはどうにも抜けきらない不調を結局、朝から晩まで降り続ける大雨の所為にした。


 辺りはまだ暗くはない。作戦の実行をするにはまだ人が多い。どこかで時間を潰す必要がある。図書室に行く気にもならないのでタンチョウはストレッチを挟みながら素振りを続ける事にした。



「お疲れさまです!」



 後輩たちが素振りを続けるタンチョウに挨拶をして去ってゆく。


 不調を打ち払うかのように素振りを続けるがやはり抜けきらない。重たい何かがまとわりついているような感覚があった。


 タンチョウはようやく体が不調である事を嫌々ながらも認めた。


 タオルで汗を拭きとりながら部室にバットを返したタンチョウは教室で借りて来ていた本を読んで時間を潰そうと考えた。


 時刻は午後6時を過ぎていた。雨雲が空を覆っているので陽の光はほとんど射し込まない。月明かりさえも期待できないだろう。


 タンチョウは爪先で地面を数回叩いて土を落とす仕草をすると靴を脱いで教室へと向かった。早く着替えたい。自然と足は速くなっていた。


 教室には誰もいなかった。人っ子一人いない教室とは無暗に寂しくさせる。タンチョウが電灯を点けると室内はパッと明るくなった。



「着替えよう。いつまでも汗に濡れていると気持ちが悪い」



 独り言ちてみても返す者もいない。雨音だけがタンチョウの耳に届いていた。


 窓際に行ってグラウンドの様子を見てみた。サッカー部もグラウンドに出ていない。どこかで野球部と同じように基礎練習に励んでいるのだろう。


 明日は体育がある事を思い出したタンチョウは少しだけ気分が落ち込んだ。


 制服に着替え終わるとぐいと伸びをして借りていた本を机の中から取り出して開いた。


 するとまず思い出したのは本の内容よりも図書室での出来事だった。


 思い出したくもない事が頭の中心にいるので彼の疲労感はいよいよ増すばかりだった。ひと眠りしようかと考えて彼は机の上に突っ伏した。


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