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第一〇六羽 校長室の木箱編

 6時限目が始まった。


 タンチョウは隠れてグループにメッセージを送った。



≪ミソサザイ先生、オシドリから借りた物をキセキレイから回収しました。準備は万端です≫


≪タンチョウ、いつも通りでいいんだよ。これまで通りでね≫


≪タンチョウ?≫


≪いや、なんだかこうなってしまう≫


≪馬鹿だねー≫


≪馬鹿とはなんだ≫


≪だって、そうじゃん!≫


≪分かったよ、タンチョウ。ちょっと時間が必要かもね。準備はありがとう。じゃあ、放課後に会おう≫


≪はい≫


≪どうなるかなあ≫


≪本当にねー≫


≪放課後は校長はいないのか?≫


≪いないはずだよ。今日は会議の予定も入っていないから≫


≪校長は今、孫が生まれて夢中だからねえ≫


≪そうなの?≫


≪そうだぞ、全校集会の時に人の誕生についてこの前、話してただろう。その時に孫が生まれた事がきっかけで色々な事を考えると言ってたじゃないか≫


≪いや、言ってたじゃないかって言われてもなー≫


≪話を聞いていないのか?≫


≪大概、ゲームしてるし≫


≪なんて奴だ≫


≪今どき真面目に聞いてる奴なんて稀でしょー。小テストの対策のために勉強道具を持って行ったり、読みたい本を持って行ったりするでしょ。暑い中でぎゅうぎゅうに詰め込まれて話を聞く球児は慣れてるかもねー。無駄に長い話に≫


≪そんな奴は見た事がない≫


≪ずっと、話してる人の方を見てれば隣で本を開いている人が居ても目に入らないでしょー≫


≪まったく世も末だ≫


≪タンチョウは真面目過ぎるよ≫



 そんなやり取りをして時間は過ぎていった。


 真面目と言われるが授業中に教師の話を聞きながらもこうして隠れてメッセージのやり取りをする自分がとうてい真面目とは信じられないタンチョウは面白くなさそうにペンを走らせた。これが真面目であるのなら不真面目な者はどれほど不真面目であるか彼は想像もつかなかった。


 6時限目にこうしてメッセージのやり取りをして大人しく授業を受けているといつの間にか感じていた悪寒も和らいでいてタンチョウは大いに助かった気になった。それでもやはり何かどんよりとした空気を感じているのは外がまだ大雨を降らせていたからだろう。


 今日の部活は校内の廊下で筋トレだなとタンチョウは考えた。そして予定よりも早く終わるだろうとも思われて実行の時が着実に迫っているのを感じるのだった。この体調なら出来そうだぞと考えて腕まくりせんばかりに意気込み始めた。


 そして鐘が鳴って6時限目の終わりが告げられた。


 時間に余裕のあるタンチョウは黒板に書かれた内容を消すのを手伝った。女子の日直がコジュケイで男子の日直が友人だったからである。



「ありがとう」


「どういたしまして」



 コジュケイはにっこりと笑って礼を言った。彼女はどうやら依頼について話を聞きたい様子だがこんなところでは聞けない。会話もないまま無言で教壇の上に立っていると注目を浴びるようで視線を嫌に感じる。居たたまれなくなったコジュケイは教壇を下りて自席へと戻った。


 タンチョウはそれに付いて行くと帰り支度のために荷物をまとめ始めたコジュケイに尋ねた。



「なあ、幽霊って信じるか?」



 コジュケイは突然の質問に驚いてまじまじとタンチョウを見つめると「ふふ」と指で口元を覆って小さく笑った。



「どうして?」



 聞き返されると思っていなかったタンチョウは答えに詰まる。



「なんかそう思ってな」


「信じないわ」


「そうか、そうだろうなと思ったよ」


「なによ、答え合わせなら閉まっておいてよね」


「いや、そうじゃないよ。どう思ってるか聞きたかったんだ」


「良い幽霊なら歓迎だけど、良い幽霊って空想でしょ? 映画とか、ドラマとか。現実的にはありえない」



 タンチョウはふと考え付いた。コジュケイは生徒会の役員だという事に。



「なあ、校長室に入った事はあるのか?」


「あるわよ。校長室は整ってる。相良校長は綺麗好きだから」


「そうか、綺麗好きか」


「それが幽霊と関係があるの?」


「あるかもしれない」


「そう、良い幽霊だといいわね」


「どっちでもいいさ。俺は幽霊を信じてないからな」


「あら、そう」



 コジュケイが荷物をまとめ終わるとリュックを背負うのを見届けた。



「今日は、生徒会の活動があるのか?」


「ええ、少しだけね。タンチョウは今からご出勤なの?」


「ああ、今からだ。部活を終えてからが勝負だな」


「そう、気をつけてね」



 タンチョウは教室を出て行くコジュケイを見送ると部活動に行くために着替え始めた。放課後になってもやはり雨はバケツをひっくり返したように降っていて窓には上から滝のように雨水が流れ落ちていた。



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