第一〇五羽 校長室の木箱編
教室に戻ると少し経ってから鐘が鳴って5時限目の授業が始まった。
タンチョウはその間、昼休みの出来事で信じ始めた幽霊の存在をいかに打ち消すかに必死になっていた。
キセキレイたちに報告しようかとも思ったが馬鹿にされるのがオチだと予想して中止した。だが、やはり誰かに相談したいという気持ちもあった。
幽霊から依頼が来るはずはない。それでも色々な点が幽霊からのメッセージであるとタンチョウには考えられてならなかった。
5時限目の授業を彼はほとんど震えて過ごした。
「大丈夫?」
同じクラスのコジュケイが不調のタンチョウを気遣った。
「ああ、なんだか朝から体調が崩れてるんだ」
「そう、依頼はどうなの?」
「それだ。依頼の書いてある古い紙を手に取ってから崩れだしたんだよ。おかしなことだ、これは絶対に何かある」
「何かって?」
「何かだ。分からんから恐ろしい」
「続けるの?」
「そうするしかない」
「そう、気をつけてね」
コジュケイはタンチョウの肩に触れてから立ち去ると教室を出て行った。
タンチョウは座ったままの姿勢で腕組をしながら難しい顔でいた。昼休みのあの少女を思い出してみると着ていた制服は今の制服と異なっていた気がしてならなかった。それをコジュケイが教えてくれたのだ。
それだけ分かると彼はもう逃げられない事を知って覚悟を決めたのだった。
彼のポケットに入れていたスマホが振動した。メッセージを受信したのだ。タンチョウはのそのそと手を動かしてスマホを見るとキセキレイからだった。
≪オシドリから借りて来たよー。渡すから屋上の入口に来たまえー≫
≪分かった≫
タンチョウは返事をしてすぐに立ち上がると教室を出て真っすぐに待ち合わせ場所へと向かった。階段を登る足がとても重いと感じたのもこれが初めてだった。
階段を登って行くと手すりから顔を出しているキセキレイがいた。
「遅いー!」
「急いで来たんだ許せ」
「仕方がないなー」
「オシドリは元気だったか?」
「元気だったねー。相変わらずだよ」
「そうか。それで何を借りて来たんだ?」
「これ!」
キセキレイは鞄から大きな袋を取り出すとそこから2つのゴーグルを取り出した。
「なんだこれ?」
キセキレイは1つのゴーグルをタンチョウに渡して見せた。手に持ってタンチョウがまず思ったのはゴ
ーグルの重さだった。首が痛くなりそうなほど重い。タンチョウはそれだけでウッとなった。
スキーで使うスノーゴーグルやバイクに乗る者が使うライダースゴーグルばかりを知っているタンチョウはこのゴーグルが周りに付けている装飾を見て暗視ゴーグルだと勘づいた。
「暗視ゴーグルか?」
「そうだよーん」
「こんなものを持ってたのか、奴は」
「うん。オシドリってけっこうアクティブな時があったんだよー。これは友達とサバゲーしてた頃に作った物だって言ってた」
「そうなのか。今では考えられないな」
「そう? わたしはやってそうだと思うけど。FPSが上手いんだよ、オシドリって」
「へー、そういえばアオゲラがオシドリに会いたいって言ってただろう。あれは相談したのか?」
「うん、したけど嫌だって」
「まあ、俺も会うのに時間がかかったからな。仕方がない。アオゲラには根気よくやっていけと言っておくよ」
「そうだねー」
「2つゴーグルがある。俺とミソサザイで構わないだろう。充電は満タンなのか?」
「うん、したって言ってた」
「そうか、ありがとう」
「使い方を一通り教えてくれ」
「もー、仕方がないなー」
タンチョウはゴーグルの使い方を習った。
「じゃあ、頑張ってねー」
「ああ」
「寒気はしない?」
キセキレイに聞かれるとタンチョウは彼女の顔を見た。口の端から笑みがこぼれている。笑っているのだ。そして楽しそうでもある。タンチョウは本当の事を言う気にもならず、さっきまでは誰かに相談したいと思っていたのにキセキレイに話そうとしなかった。
「しない。あの時だけだ」
「ふーん。まあ、どうだったかは聞かせてよ。放課後はフォローするかもしれないしねー」
「頼んだぞ」
タンチョウは強がった。そして2人は一緒に階段を下りていった。キセキレイはどことなく楽しそうでタンチョウは落ち込んでいた。




