第一〇四羽 校長室の木箱編
昼休みになるとタンチョウは図書室へと向かった。アオゲラの友達だと言う図書委員の女の子が受付に座っていた。
タンチョウは真っすぐに昔の生徒名簿を取り出して小谷明美という名前を探し出した。4冊目でようやく小谷明美の名前を見つける事が出来た。
昭和49年卒の1人になっている。その後の記載はされていないので亡くなったという話が事実であるかはミソサザイの話を信じるしかない。
それでも信じるに足るような気がしている。というのはミソサザイが言った小谷明美の特徴と写真から見て取れる特徴とが一致していたからだ。
その中にミソサザイもいるだろう。それでもタンチョウは見ようとしなかった。楽しみは後に取っておこうとしているのだ。
タンチョウはそのまま図書室の奥で時間を潰した。学校の実測図があったのでそれを手に取って窓際に腰かけて読んでいる。大いに勉強になると思って目を通していた。
雨は勢いも変わらずに降っていた。窓を叩く雨音はリズミカルと言うには余りに疎らで集中力を削いでいく。
昼休みの半分を過ぎた頃、タンチョウはまだ図書室の奥の窓際に腰かけて実測図に目を通していた。興味深い記録だと思って読みふけると借りて帰ろうかとも考えられた。
タンチョウが夢中になっている間に周囲の人は居なくなっていた。閑散としていて雨音すらもその場を避けているかのように窓を叩く音が弱くなっていた。
するとタンチョウは初めて耳鳴りのような甲高い響きを感じるのだった。耳を押さえたり、耳の周りを揉んでみても収まる気配がない。揉みすぎて遂には痛みも感じられたがタンチョウは初めての経験でそれ以外に方法を知らない。
彼は持っていた学校の実測図を借りて図書室を出ようと考えた。立ち上がって歩き出そうとすると突然、電飾が点滅を始めた。
並び立つ背の高い本棚の奥にタンチョウは人影を見た。電飾は点滅すら止めてしまった完全に辺りを暗くしている。図書室の中は雨中の昼間で満足に照らされない。タンチョウはゾッとした感覚を抱きながらまじまじとその人影を見た。
頭を垂れていて長い髪が垂れ下がっているので隠された顔からは表情を読み取る事が出来ない。それでも体の向きはタンチョウの方を見ていた。停電しているのに慌てた様子さえない。
タンチョウは目を逸らす事が出来ないままその女の子を見ていた。長い髪と華奢な体型を認めると頭の中でパッと小谷明美の印象が閃いた。すると目の前の女の子の頭にも髪留めがあるのが見えてタンチョウは腰を抜かさんばかりに恐怖した。
「ゆ、幽霊の訳がない」
タンチョウはゆっくりと瞼を閉じた。そうすれば悪い者は居なくなると思っての事であろう。まるで祈るように静かに行った。頭の中ではホラー映画やゲームのように目を開くと目の前にいる光景を思い浮かべていた。ますます目を開けるのを躊躇わせる妄想を自ら行っているが自制も効かなかった。
どうとでもなれと言わんばかりに目を開くと少女の幻影も消え去って明るい図書室が取り戻されていた。窓を叩く雨音も聞こえて来て耳鳴りも収まっていた。
タンチョウは急いで本を借りる手続きを済ませると教室へと戻っていた。悪寒はますます強くなり、背中にはジトッとした不快な汗をかいていた。




