第一〇三羽 校長室の木箱編
ミソサザイの言う事を聞いてからタンチョウはこの依頼をやると決めた事を後悔し始めていた。仕事に従事するのを選びはしたがこうした事態は初めてだった。
依頼主らしき人物はすでに亡くなっている。タンチョウは耳を塞ぎたいと思っている。再び強い寒気がタンチョウを襲っているのにキセキレイたちはそんな事を察した様子もなく話を続けた。
≪名前はなに?≫
≪小谷明美さん≫
≪可愛かった? どんな子だったの?≫
≪可愛かったよ。髪が長くてね、いつも束ねていた。お洒落な髪留めをたくさん持っていてよく着けていたよ。男子の注目の的だった≫
≪うんうん、それで?≫
≪続けて続けて≫
≪キセキレイとカッコウはこういう話が好きなんだね。とにかく彼女は男子の注目の的だったんだ≫
≪本当に可愛かっただけで注目されるかな?≫
キセキレイが訊ねた。
≪本当に恐ろしいほど察しが良いね。そうだよ、『でも』が付くんだ。彼女は病弱だった。肌は真っ白で手足は華奢だった。儚いって思うのはもう会えなくなったからだろうね。とにかくそんな感じの子だったよ≫
≪ミソサザイは小谷さんの事が好きだったんだねえ≫
≪え?≫
≪だって、少なくとも30年前の事を今、こうしてつぶさに思い出せるって事は好きだったって事だよ。
間違いないね。惚れてたでしょ。それにその儚さに惚れてたと見えるね。色白で華奢、夏の陽の光を避けるために影にいる彼女を見てたでしょ。体育で退屈そうに木陰に座る彼女を見てたでしょ。
そして2人きりになる瞬間があった≫
≪怖いね、まるでその場にいたようだ。うん、帰り道が一緒だった。調子の悪い日は荷物を持ってあげたっけ≫
≪あの人がミソサザイの可能性もあるよねー、これは≫
≪うん、あるねえ≫
≪まさか、そんな≫
≪判断は任せる。木箱を手に入れて見れば分かるだろう≫
≪そうだねー。オシドリには放課後までに準備してもらうよ。もうメッセージは送ったから準備が出来次第で取りに行く≫
≪何を準備してもらうつもりかは分からんがミソサザイの分もあるだろうな?≫
≪抜かりはないよーん≫
≪頼んだぞ≫
≪タンチョウもね。土壇場で寒気がするとか言わないでよねー≫
≪風邪じゃない?≫
≪カッコウ、知ってると思うけど馬鹿は風邪をひかないんだよ?≫
≪そうだったねえ。タンチョウは丈夫だなあ!≫
≪おい、怒るぞ≫
≪あははは、冗談だってー。じゃあ、任せたからね!≫
タンチョウは少しだけミソサザイと会えるのを楽しみにしていた。思い返してみるとたくさんの依頼の中でミソサザイとだけは面と向かって会った事がないのだった。
放課後が待ち遠しい。彼はそんな事を思いながら授業を受けていた。
考える事はたくさんあったがタンチョウは敢えてそれらから目を逸らして考えないようにしていた。目先の目標は校長室にある依頼の木箱だ。どこの誰が依頼を投稿していようとも関係はない。
そして授業の終わりを告げる鐘が鳴った。




