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第一〇羽 蔵書編

 タンチョウが近づくと彼女は目を逸らした。


 無表情にパソコンの作業を続けている。タンチョウは受付のテーブルの前に立つと彼女に話しかけた。



「ねえ、海外文学の棚ってどこ?」


「A―2」



 ずいぶんと素っ気ない。タンチョウは気を悪くもしないで並ぶ棚を見やると視線を彼女に戻して尋ねた。



「本を探してるんだけど検索できるかな?」


「本の名前は?」


「それが分からないんだ。アメリカの作家で、怪盗小説の短編を書いてるんだけど。その怪盗ものの短編集がないかな、と」


「それだけ分かれば、なんとか」


「そこで全部が分かるの?」


「そう、ここで全部が分かる」



 カタカタとタイピングする音がタンチョウの耳に届いた。


 彼女の校章を見ると3年生の色だ。アオゲラに蔵書の事を教えたのはこの子かもしれないとタンチョウは直感的に感じた。



「この図書室には置いてないみたい。怪盗ものの小説はルパンしかない」


「え、最近になって新刊が出てるんだ。そこのデータが古いのかもしれないよ。隣のパソコンでも調べてみてよ」


「同じよ。全部、繋がってるもの。同じデータを扱ってるから」



 彼女はタンチョウを一瞥すると言った。



「無い物は無い」



 目的の物はない。タンチョウはため息をついて体を起こすとゆっくりと受付の様子を眺めた。



「もし、購入を希望するならそこの紙に書いて投稿しておいて」



 彼女が言いながら指で示したのはピンク色の箱の中にある薄い紙だった。そこには【購入希望】と大きく書かれた紙が置かれている。


 タンチョウはそれほど読みたい欲には駆られていない。その本のシリーズは全て自宅にあるからだ。



「書くと置かれるようになるの?」


「図書委員の会議で購入対象として認められればね」



 彼女の瞳に反射するパソコンの画面の光はタンチョウに冷たさを感じさせた。



「それじゃあ、ありがとう」



 彼女は口を結んだままでタイピングを続けていた。雨の降る音のようにキーを叩く音がタンチョウの耳に届いた。


 知りたい事を知る事が出来た。あそこでデータさえ書き換える事が出来さえすれば大丈夫なのだ。


 それを知るとタンチョウは安心したが次の問題があった。


 放課後の図書室にどうやって忍び込むのか。キーピックは以前に経験したがあれはロッカーだった。ひとつの部屋の扉となればより困難になるだろう。


 図書室に入った時に目にした鍵穴はロッカーのように簡単なものではなかった。


 細いピンでは心もとない。いよいよ図書室の鍵を入手する方法を考えなければならなかった。


 図書室の鍵は放課後には職員室に返される。日報が書かれる黒板の横にある棚に保管されるはずだ。


 タンチョウは頭の中で職員室の間取りを再現するとどうにか職員室に入る事が出来れば鍵を盗るのは簡単だと考えた。


 下見に職員室にタンチョウが行くと簡単ではないかもしれないと考えを改めた。


 生徒会の庶務が職員室の入口2つの前に立って警戒しているのである。


 ムスッとした仏頂面の2人の男子生徒がそれぞれの出入り口の前に立っている。タンチョウには覚えのある顔だった。


 廊下の角に身を潜めながら職員室の様子を窺っていると1人の女子生徒が職員室に入ろうとしたが止められたところが目に入った。


 庶務と女子生徒がなにやら話し込んでいるがタンチョウには内容は聞こえなかった。庶務が頷くと同時に女子生徒は職員室の中に入った。


 中に入るための用事を尋ねているのだ。彼らが納得する事でなければ入室は出来ないだろう。


 これも一つの収穫としてタンチョウは持ち帰る事にした。


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